かえでちゃん失踪事件

「ごめん遠野くん。悪いんだけど、ちょっとあとにしてもらえる?  今ちょっと、かえでちゃんが行方不明で……」

話しかけてきたあっくんにそう言いながら、私はしゃがみ込んで灌木の下側を覗き込む。左右に目を走らせたけど、生き物らしいものは見当たらない。今朝、血相を変えてコートに走ってきた鬼さんから、”かえでちゃんが行方不明になった”と聞き、その話を聞いていたメンバーで朝から捜しているところだった。”狭いケージの中ではかわいそうだ”と、鬼さんはときどきかえでちゃんを外で遊ばせてあげることがあって、そこで目を離した隙に逃げてしまったらしい。
全然関係ないけど、この間のサブちゃんの誤解の件は今のところなんの問題もなさそう。

「みんなで捜してるんだけど、まだ見つかってなくて」

私は立ち上がって服の埃を払い、かえでちゃんのいそうな場所を探すべく歩き始めた。私の後ろに立っていたあっくんも歩いて着いてくる。

「かえでちゃんって、あれか、鬼の飼ってるネズミ」
「ハムスターだよ。でも、ほんとどこ行っちゃったんだろ……」

そう言いながらあたりを見回していると、同じくかえでちゃんを捜していた修さんとサブちゃんが、こっちに向かって駆けてくるのが見えた。

「そっちはどないです?」

私は首を振る。

「いないみたい。そっちは?」
「こっちもおらんかったわ。……にしても、ホンマに範囲広すぎてどうしようもないで」
「最初に見失った場所の近くはもう捜しましたしね……」

3人して考え込んでいると、私の少し後ろに立っていたあっくんが唐突に口を開いた。

「目ぼしいところにエサでも置いときゃいいんじゃねーのかよ」

その言葉に沈黙が訪れる。次の瞬間、私たちは一斉に後ろを振り向いて「それだ!!」とあっくんに人差し指を突きつけた。

「アツもたまにはええ事言うやん!」
「いや普通に思いつくだろ。あと、”たまに”は余計だ!」
「さっすが、遠野さんらしい”卑劣な”アイデアですわ!」
「お前ケンカ売ってんのか? 卑劣でもなんでもねーだろ!」

ことさら"卑劣な"の部分を強調するサブちゃんに、私はなんだか嫌な予感がした。こないだの”ごっこ”の件、あれ問題なくないのかも……。私が誤解をとこうと口を開いたら、”他のみんなにも伝えてくる”と言うが早いか、2人は別々の方向に駆けて行ってしまった。……まあ、また後でもいいよね。

「じゃあ、私は鬼さんのとこ行こうかな。遠野くんは?」
「ネズミは別にどーでもいいけど、着いてってやるよ」

揃って歩き始めると、あっくんは最初に私が遮った話の続きをしてきた。確か、”買い物に行きたいから着いてこい”みたいな内容の話だった気がする。かえでちゃんを捜す方に神経を集中していて、あっくんの話は上の空で聞いていた。

「で、さっきの話なんだけどさぁ、お前いつヒマなの」
「えーっと……、来週の土曜なら大丈夫かな」
「あっそ。じゃあ、来週の土曜な。忘れんなよ」

あっくんは念を押すように人差し指を突きつけてきた。私はそれにハイハイと頷く。

「土曜ね。了解」

鬼さんがかえでちゃん捜索を担当している場所に着くと、まず目に入ったのが五体投地ばりに地面に這いつくばってかえでちゃんを捜す鬼さんだった。
私の隣であっくんが「重症だな」とボソッと呟いたのが聞こえて、私はそれに苦笑を返した。


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