だからお前ら小学生か

「あ、そう言えば」

遠野部屋で写真の整理をしていたとき、私は不意にあることを思い出した。その瞬間に手に持っていたのは、鳳凰さんとデュークさんが猫と戯れてる写真だったけど、これといった意味はないと思いたい。

「あっくん、帰ったらアイス奢ってくれるって言ったよね」

さっき突き飛ばしたのがよっぽど気に喰わないのか、あっくんは私に背中を向けて完全無視。こっちを向こうともしない。でも弁解させてほしい。あれはあっくんが悪いんだ。私がせっかく試合別にわけておいた写真を、ぜんぶごちゃ混ぜにしやがってからに。
名前を呼んでみたけど、完全無視。……これだったら、なに言っても無視するんじゃない? いいや、ちょっとからかってやろう。写真ごっちゃにされたお返しだ。

「遠野くん」

無視。

「篤京くん」

無視。でも、ぴくっと肩が動いた。

「遠野」

無視。

「篤京」

”篤京くん”のときよりも大きく肩がはねた。そうかそうか、篤京か。

「ねえ、篤京。ねえねえ、篤京。篤京?」

さすがに無視できなくなったらしく、ばっとこっちを振り向いた。少しだけ顔が赤いような気がする。きっと私があんまり名前で呼ばないから、なんかこそばゆいんだろうな。とか思ってニヤけてしまう。

「さっきから篤京篤京うるせーな! 俺の名前連呼するのがそんなに楽しいかてめーは!」
「あっくん顔赤いよ」
「うっせ、暑いんだよ」
「ああ、ほら、じゃあアイス食べに行こうよ。あっくんの奢りで」

そう言ったら、あっくんはなんだか怪訝そうな顔をする。

「つか、俺、”奢る”とか言ったか?」
「言ったよ。みんなでババ抜きして私が勝ったとき……」
「ババ抜き? ああ……、やったな。そういや」
「で、負けた方がアイス奢り、って約束した」
「なんでアイスだったんだろうな」
「さあ。そのときちょうど食べたかったんじゃない?」

今はちょっともう、アイスって時期じゃないけど。奢ってくれるなら別になんだっていいや。そう思いながら、ぐちゃぐちゃになった写真をまとめる。そして、あっくんを突き飛ばした事を思い出す。ちょっとあれは良くなかったかも、倒れた時すごい音したし……。下の階、誰もいないといいけど……。
肩越しにちらりと後ろを振り返ると、あっくんはまだ写真を見ていた。写真の整理を手伝ってもらうつもりだったのに、結果的にただの写真鑑賞会になってしまった。仕方ないから、あとでひとりで整理しよう。

「ねえ、あっくん」
「ん?」

こんどはちゃんと振り向いてくれた。切れ長の目を、少しだけ大きくして。

「突き飛ばしちゃって、ごめんね。痛かったでしょ」

私がそう言うと、あっくんはびっくりしたような顔のあと、ふっと笑ってデコピンをしてきた。それが意外に痛い。叩かれた箇所をさすっていると、ぐしゃぐしゃに頭をなでられる。

「ばーか。気にしてねーよ」

私を突然の暴風に見舞われたかのような髪型にしたあっくんは、そう言って立ち上がる。いや、気にしてたよ。最初無視してたじゃん。と喉まで出かかった言葉を呑み込んで、私も髪を整えながら立ち上がった。


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