わるいこだあれ

私とキミさんが会話しているなか、あっくんはめちゃくちゃ険悪且つ物騒な雰囲気を醸し出しながら、私たちの数歩後ろを歩いている。そんなあっくんの視線を全く気にも留めずに、顔のまわりにお花でも飾ってあげようか、というくらいルンルンな笑顔で喋るキミさん。2人のテンションの差がこわい。寒暖差の激しい日の最低気温と最高気温って感じ。

「ところで、写真の現像は済んだんですか?」

私は頷いた。

「うん、現像は終わってる。あとは整理するだけ」
「結構な数だったでしょう。整理、お手伝いしますよ」

視界の端のあっくんの表情が変わる。今ここにテニスボールとラケットがあったら、間違いなく処刑技発動してたと思う。そんな顔だった。あっくん、合宿所は無法地帯だけど、ここは捕まるから。

「ありがとう。でも、大丈夫。入れ替え戦に向けて、色々忙しいと思うし」
「そうですか? 遠慮しなくてもいいのに」

そう言って、キミさんはマスコミ用営業スマイル。慣れてんのね、さすが。その笑顔を見た所為か知らないけど、近くを通りかかった女子高生軍団が「え、あれ、キミ様じゃない?」とかなんとか騒ぎだす始末。これだから有名人といるのは嫌なんだよ。修さんのときだって、1回こんなことあったし。
私の隣で、キミさんはその軍団に向かって優雅に手なんか振ってる。黄色い悲鳴。顔を全力でしかめるあっくん。私は小声で呟いた。

「キミさんって、やっぱ有名人だったんだね」
「いっそ有名になりすぎて、ファンにストーカーとかされればいいのにな」
「あっくん、それすごく遠回しに死ねって言ってる」

手を振っていたキミさんは、近づいて来た軍団にサインか写真(もしくは両方)でもねだられたのか、営業スマイルで女子高生の輪に入って行った。それを見送ったあっくんは、急に私のほうに向き直り、やたら力を込めて両肩に手を置いてきた。そして、これもやたら真剣な面持ちでこう言ってきた。

「よし。マキ、全力で走れよ? もう、後ろからチーターが追っかけてきて追いつかれたら喰われる。くらいの勢いで走れよ?」
「え、どこまで? ていうか、キミさんどうするの?」
「あいつの事は忘れろ。とりあえず、君島が視界に入らなくなってからその後10分走って行ける距離まで走る」
「そんなに走ったらスーパー通り過ぎるんだけど」
「そしたら、その先のスーパーでいいだろ。安心しな、アイスは逃げねえ」
「安心できないし、私そんな苦労してまで食べたいほどアイス狂じゃないから」

そう言って、肩に置かれたあっくんの手を退けようとしたときだった。

「ダッツ5個でどうだ」
「よし乗った」

もう乗るしかないでしょ。だってダッツだよ?
あっくんは小さくガッツポーズを決めると、相変わらず女子高生軍団にファンサービス中のキミさんに舌を出して、私の手を掴んで走り出した。突然のことで、脚がもつれて転びそうになったけど、なんとか立ち直って、私も走り出した。キミさんには申し訳ないけど、罪悪なんて微塵も感じなかった。


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