ときどき美しい悪意について

キミさんを女子高生軍団の中に置き去りにしてしまおう大作戦(さっき考えた)は、見事に大成功を収めた。その所為で、脚がものすごく痛いし息切れがする。あ、あと喉も痛い。そんな私と対照的に、あっくんは、まだ全然余裕です。って涼しい顔で私の隣に立っている。これが日頃運動をしている人間と、ただベンチに座って記録つけてる人間の差だよ。どうだ、思い知ったか私!

「マキ、お前マジで体力ないよな。まあ、ガキの頃からだけど」
「逆に、あれだけ走って、なんで、息が、切れてないの……!」
「あれくらい余裕だろ」

そこで私は重要な事に気が付いた。

「ねえ、あっくんに余裕ならさ、キミさんにだって、余裕ってことじゃないの……?」
「まあ、だろーな」
「あれ、いいの? いや、私はいいんだけどさ」
「あいつこっち見てなかったし、まず近くのスーパー入るだろ。まさか、もうひとつ先だとは思ってないハズだ」

私も最初はこんな運動する羽目になるとは思ってなかった。って言おうと思ったけど、きっとすごい剣幕で睨まれるに決まっているから、言わないでおこう。

「合宿所帰ったらさ、キミさんの私に対するテンション逆戻りかもね」

むしろ、もっとひどくなるかもしれない。まあ、別に構わないといえば構わないんだけど……。

「いや、あいつ意外とそういう頭まわらないから平気だろ」
「あー、面と向かって言われないとわからないタイプか。厄介だね」
「だろ? ダブルス組んでる俺の苦労が、これで少しは解ったかよ」
「まあ、うん。少しくらいは」 

スーパーの入り口でカートにカゴを乗せようとすると、あっくんが、アイス買うだけにカートは要らないから戻せ。と言ってきた。

「いや、せっかくスーパーに来たんだからカートは使わないと」
「どんな理屈だよ。戻せよ。無駄なだけだから」
「いいじゃんカートくらい。お金とられるわけじゃないし」
「そう思うだろ? 違うんだよ。移動が楽なことにかこつけて、要らないものまでどんどん買い込むんだ。金とられてんのと一緒じゃねーか」
「……確かにそうかもしれないけど、その知識どこで仕入れたの」
「経験」
「さいですか」

あっくんの言うことは尤もだと思ったので、結局カートは諦めた。私が、カートで脚を轢いてやろうと思ってたのに、と胸の中に秘めていた計画を暴露したら、お前はあの痛みを知らないからそんなことが言えるんだ、と、なんだか真剣な顔で返された。
そう言えば、中学の夏休みにバーベキューやるからって買い出しに行った時、前方であっくんが止まったのに気付かなくて、思いっきりカートで轢いた、と言うより、ぶつかった事があった。相当痛かったみたいで、それから5時間くらい口も利いてくれなかったっけ……。

「君島が来る前に、さっさと買って帰るぞ」
「別に来たっていいじゃん、嫌な奴じゃないし。普通にいい人だよ?」
「さっきのJK軍団がついてきてもか」
「早く買って帰ろう」

それは御免だ。それだけは御免だ。
私たちはアイスをカゴに放り込むと、足早にレジに向かって会計を済ませ、そのまま小走りで合宿所へと向かった。もちろん、来た道とは別の道を通って。

 

帰ってくる道中、特に何事もなく、無事合宿所にたどり着いた私たちが最初に目にしたのは、柘植コーチにお説教をくらっているキミさんだった。え、なんでキミさんお説教くらってるの? もしかして外出許可の事かな? と思ってあっくんを顔を見合わせたのも束の間、それとは全く関係のない単語が耳に飛び込んできた。

「関係者以外立ち入り禁止、と、ちゃんと書いてあるだろうが!」

関係者……?あっくんも意味がわからないみたいで、肩をすくめて見せた。でも、柘植コーチの、部外者をあれほど大勢、って言葉でなんのことか一瞬で理解できた。キミさん、あの女子高生軍団を合宿の敷地内に入れたのね……。
隣であっくんが、アホらし、と呟く。杞憂だったね、と私も呟いた。それから私たちは、柘植コーチの怒鳴り声をBGMに、またキミさんを置き去りにして宿舎へ向かうのだった。


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