天国から地獄

「よぉ、久方振りだな」

振り返ったそこには、顔に不敵な笑みを貼り付け、銀色に輝く長髪とハサミを持った、四天王最凶の男が立っていた。なんで。神様、私あなたに嫌われるようなことなにかしました? ここ最早天国広場じゃないね、地獄広場だね。なんだよこのジェットコースター並みの幸せゲージ急降下。……知らないフリすれば切り抜けられるかな。

「ひ……、ヒトチガイデース! ワタシニホンゴワカリマセーン!」
「ああ? テメーふざけてっとぶった斬るぞ」
「すみませんふざけました赦して下さいちゃんと真面目にやります」

ぎらりと光るハサミを目の前にちらつかされて即土下座。プライドなんて知るか。命の方が絶対に大事だ。

「つかぬことをお尋ねしますが、OVERさんが何故ここに……?」
「オレがいちゃ悪いか?」
「いいえ滅相もございません全然大丈夫です問題ないです」

首振りすぎてなんか気持ち悪い。でもその気持ち悪さより、OVERさんに対する恐怖の方が遥かに勝る。なんで別行動しようなんて言ったの私。過去に戻れるなら、そのときの私ぶん殴ってやりたい。て言うかぶん殴る。

「野暮用で来たんだが、思わぬ収穫だな」
「そ、それはようございました、それじゃ、私は失礼しますねー……、」

ここにいたら確実にやばいと私の第六感が仰っているので、それに従ってじりじりと後ずさっていた私は、言い終わると同時に踵を返してダッシュした。……が、服の襟首を掴まれて失敗に終わる。ああ、私このまましぬのね。天の助さんよろしくハサミでまっ二つになるのね。OVERさんに襟首を掴まれたまま、ズルズルと引きずられていく。ダレカタスケテ。
て言うか、周囲の視線が痛い。まあ、視線が集中するのも無理ないよ。見の丈くらいあるハサミを肩に担いで鼻歌うたいそうなくらいご機嫌な人間と、襟首を掴まれて引きずられてる人間だものね。そりゃ見ちゃうよね。見たくなくても目がいっちゃいますよね。もしかして私、これから公開処刑なんだろうか……。

「つーか、なんでお前1人だったんだよ。他の奴らはどうした」
「いやあ、かくかくしかじか……」
「それで伝わると思ってんのかテメーは。斬るぞ」
「あの3バカがいるとまた遊び損ねるから別行動にしようねってなって私はとあるお2人の愛のキューピッドになるべく単独行動をしていた次第でありますOVER大佐」

私は一息に事情を説明し、ついでに引きずられたまま敬礼もしておいた。駄目だ、こんな状況下でもハジケ魂が……!

「まあ、どーでもいいけどな」
「あれ、じゃあなんで訊いたの!?」

私のツッコミを華麗にスルーしたOVERさんは、突然掴んでいた襟首を離した。その所為で私はコンクリートに後頭部を打ちつけた。しぬかと思ったけど、別になんともなくてとりあえず安心。OVERさんのハサミがぶっ壊れますように。私は密かに呪詛を呟いた。

「着いたぞ」
「…………着いたぞって、なんですかこれ。嫌がらせ?」

私の目の前に聳える古びた洋館。ご丁寧に周囲には墓地まである。まさか本物じゃないですよね。

「私、急用を思い出したんで帰りますねさよなら!!」
「逃げんな」
「なんですか、なんなんですかこの仕打ち!! あんた私になんか恨みでもあんのか!? もしあるなら土下座して謝るよごめんなさい!!」

必死に捲し立てる私を見て、OVERさんは口角をつり上げる。神よ、この極悪人にどうか天罰を。

「お前、マジで駄目なんだな」

どこから仕入れた情報なのか、OVERさんは私がリアルお化けが嫌いだと知っているらしい。ホラー映画とか、映像で見る分には全然平気、むしろ好きなくらいなのだが、実際に自分が体験するとなると話は別だ。超こええ。OVERさんがいらっしゃる所為で恐ろしさ二割り増し。もう泣き出したい気分だった。リアルお化けも嫌だし、ハサミの錆になるのも嫌だ。

「入るよな?」

解る、私には解る。これは疑問形なんかじゃない、命令形だ……!

「……ハイ」

こうして私の地獄が幕を開けた。OVER呪われろ。


← mokuji →

TOP