お化けなんてほんとさ

「やっぱりやめません? ほら、ホントに呪われちゃうとアレですし……」
「なまえ、テメーくどいぞ。腹括りやがれ」
「なんで強制連行されたのにそんなこと言われなきゃいけないんですか!!」

ついに来てしまった。ニコニコ笑うスタッフのお姉さんと対照的すぎる不気味な扉。嫌だよ、なんかドライアイスの煙流れ出て来てるよ。本格志向すぎだよハレルヤランド。他のアトラクションはいいけど、こればっかりはバカなんじゃないかと本気で思う。

「おい、さっさと行くぞ」
「ちょ、まだ心の準備が……、OVER貴様ああああ!!」

心の準備がって言ってるのに、あろうことか奴は私の腕を引っ張って無理矢理アトラクションに殴り込み。暗くて足下見えないし、冷房利きすぎで寒いし、なんか変なうめき声が聞こえるし、こんなアトラクション爆破されてしまえばいいのに。

「へえ、もっとチャチかと思ったが……、ハレクラニだけのことはあるな」
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……」
「なまえ、逆に雰囲気出してねえか? それ」
「マジすか、じゃあやめます……、もうなんか出てきました?」
「まだ入り口見えてんだぞ。こんなとこで出るか」
「じゃあ今からでも引き返、」
「すワケねえだろ」
「OVERさんの鬼、悪魔、ケツアゴ」
「ああ? テメーもっかい言ってみろ」

ちょっと待って。リアルお化けより隣のOVERさんの方が断然怖いってことに今になって気付いた。

「すみませんなんでもないですごめんなさい許して」

すごい剣幕で私を睨みつけるOVERさんに土下座をして謝る。明らか最後の語句に反応してキレたんだと思うけど、だって事実じゃん!

「次ふざけたこと言いやがったらぶった切るからな」

右手でハサミを掴みながら、左手で喉を掻っ切るジェスチャーをやってのけるOVERさん。よっぽどさっきの”ケツアゴ”呼ばわりが効いているらしい。ケツアゴは禁句。私はしっかりと脳みそに刻み込んだ。
心に留めておきます。そう言って立ち上がり、服についた汚れを払う。
OVERさんは鼻を鳴らして、ずかずかとアトラクションの奥へ歩いていく。こんな超悪趣味で不気味なアトラクションをひとりで歩くのと、沸点のめちゃくちゃ低い野蛮人と殺されるかもしれない危機をおまけに一緒に歩くのと、どっちがマシだろうかとほんの少しだけ考える。因みにこの場合の”ほんの”というのは、”光が地球を3周できるかどうかというくらいの時間”を指す。私は急いでOVERさんを追いかけた。

「幽霊屋敷っつー割に、その幽霊がまるで出てこないってのはどーいうワケだ?」

それはたぶんあなたのせいです。と思ったけど、口には出さないでおいた(お化け屋敷で死ぬなんて笑えない)。
誰だって、いくら仕事だからといって、身の丈ほどもあるハサミを肩に担いだ目つきの悪い男の前になんて飛び出したくないよ。私だったらぜったいに嫌だ。でも、これはこれで好都合。

「OVERさん超頼もしいです」
「なに急に褒めてんだお前は」

とか言いながら、OVERさんは満更でもなさそうな顔をする。簡単におだてられそうだな、このひと。私はふっと笑った。

「しかも、あれもう出口じゃねーか」

ハレクラニの野郎に文句言ってやらねえとな。至極つまらなさそうな顔で、OVERさんは息を吐いた。
ああ、やっと出口だ……! そう思って、私が走りだそうとすると、冷たい何かが私の顔にぶち当たった。
恐る恐る上を向くと、目を見開いて硬直した天の助さんが、蜘蛛の巣に引っかかった虫よろしく、ロープでがんじがらめになって天井からぶら下がっていた。なにこれ新手のホラー? てかなんの呪い? 絶叫して逃げるべきだろ。

「ぎゃああああああ!! タタリじゃああああああ!!」
「あっ、なまえ、テメー逃げんじゃねえ!!」

私を掴もうとしてくるOVERさんの腕を跳ね除けて、全速力で出口に走る。途中、お化け役のひとが前に立ちはだかったりしたけど、どいてください! とか絶叫しながら殴り飛ばした。あとで冷静になって考えたら、あれもしかしたら幽霊のコスプレした首領パッチさんだったかも……。


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