天国から地獄(最下層)

と、とにかくOVERさんから逃げなくては。あんなのといたら身が保たない! あとタタリこわい!
身を隠す為、フラフラと迷い込んだのはどうやらちびっ子エリアだったようで……、身体が縮んだ。でもこれでバレないはず。安堵の息を吐いて、床に座り込んだ私の視界に影が落ちる。まさか見つかった? と思って顔をあげると、OVERさんよりもっとタチの悪い御仁が、子どもに退化した私を見下ろしていた。あれ、なんでこのひと縮まないの。

「あれー? もしかしてなまえちゃん?」

私と目線を合わせるように屈んだそのひとは、ニコニコと言うやさしい笑みなんかじゃなく、ニヤニヤと言った方が正しいと思える邪悪な笑顔を浮かべている。私は確信した。ここはやはり地獄広場だ。しかも最下層。

「どしたの、こんなとこに1人で」
「いや、それはこっちの台詞なのですが……」
「オレ? いや、オレはさ、ちょっと金ヅル君にせびりに来ただけじゃん。そしたら、ちょうどなまえちゃん来てるって言うからさあ」

一目見とこう、ってか、あわよくば攫おうと思って。とか、相変わらず笑顔のままでとんでもないことを口走るサイバー都市帝王。白昼堂々こんなことが言えるあたり、さすがは帝王。とでも言っておきます。と言うか、私達が来てるって情報はその金ヅル君がモニターかなんかで確認して言いふらしてるってことでいいですかね。

「だからここにいるワケよ」
「あー、はあ……」
「にしても、ホント縮むモンだなー。なまえちゃんカワイー!」

ギガさんは、私の頭をぽんぽんと叩いた上、その場に腰を下ろして私を抱きしめる。そのとき私は見てしまった、ギガさんの肩越し、入り口近くで、そりゃあもう鬼みたいな形相で鋏をジャキンジャキンいわせているOVERさんを。……否、見なかったことにしよう。そう決め込んだ私は、そろそろと頭を引っ込めて、ギガさんの胸板に頭をくっつけた。こうすれば、”私は”見えない。ギガさんはどっちみち駄目だ。目立つもの。

「ギガ、てめえ……!!」

OVERさんの声に、あろうことか、帝王は私を抱えたまま振り向いた。OVERさんの顔は見えないけど、ハサミのジャキンジャキンいう音が速くなったのは聞こえる。……神よ、私が一体なにをしたと言うのです。

「あれ、OVERじゃん」
「その腕に抱えてるもんを寄越しやがれ。で、オレの前から消えろ」
「なんでそんな怒ってんの? つか、なまえちゃんはお前んじゃねーだろ」

ギガさんは私を下に降ろすと、OVERさんに立ちはだかるようにして私に背を向ける。

「てめえのでもねーだろうが、ぶち殺すぞ」
「やれるもんならやってみな」

メンチ切って罵詈雑言を飛ばすふたり。巷のヤンキーかよ。とツッコミを入れたくなる。でもこれチャンスだ。今なら気づかれずに外に出られる……!
そろりそろりと出口に向かう私の身体は、徐々に元のサイズに戻りつつあった。よし、いける!
……そう思ったのが間違いでした。

「おい、なまえ、てめえどこに行く」

私はびたりと足を止める。痛い沈黙。
観念して振り返ると、ものすごい形相でOVERさんがこちらを見ていらっしゃった。
OVERさんより近い位置に立っているギガさんも、さっきの声につられてこっちを振り返っていて、私と目が合ったら、なんかふにゃふにゃした笑顔になった。

「子どものなまえちゃんもカワイーけど、やっぱ今のなまえちゃんのがカワイー!」
「そ、そんなこと言ってる場合じゃないですよギガさん!後ろ!」

後ろを、後ろをご覧になって!
OVERさんが今まさにあなためがけてハサミを振り下ろそうとしてるから!!

「死ねええええええ!!」

めちゃくちゃありきたりなセリフと共に、ギガさんに向かってハサミが振り下ろされた。
衝撃音。土煙り。陥没する床。ぶっ倒れているギガさん……、は見当たらない。
あれ、まさか骨も残さず消し飛んだ?とか思ってたら、土煙りの中からギガさんが!

「なまえちゃん、逃げるじゃん!」

そしてそのまま私の手を無理やりひっつかんで出口へと走る。足がもつれて転びそうになったけど、なんとか持ち直した。だってハサミの錆になるのは嫌だ!
後ろからOVERさんの、ギガァァァァ!! って怒声が追いかけてくる。
あと、歩いてるときそんな気にならなかったけど、こないだ買った靴サイズ合ってなかったみたいでめっちゃバコバコいってるんですけど!
どうしよう、しぬ!しぬ!とか思いながら走ってると、ギガさんが急に立ち止まった。立ち止まった?!

「思ったんだけどさ、なまえちゃん走りづらくない? その靴」

なんかバコバコいってるけど。止まっても足踏みだけはやめない私の足下を指差すギガさん。

「よくぞ気付いてくれましたサイズ合ってない所為で今にも脱げそうですでも今はそんなこと言ってる場合じゃないですよ早く逃げなきゃ!!」
「だよねー。んじゃ、ちょっと待って」
「待って!? ギガさんあなた正気ですか? しにますよ!!」
「へーきへーき、一瞬だから」

ひらひらと手を振ったギガさんは、ひょいっと私の膝を救い上げる。俗に言う”お姫様抱っこ”とかいうやつだ。でも、お姫様なんて恐れ多いから、”空から降ってきた女の子を受け止める抱っこ”とでもしておこうと思います。

「んじゃ、このままハレちゃんとこまで行くじゃん!」
「なにゆえ!?」


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