地獄から天国

「ビュティちゃんとへっくんにお願いがあるんだけど……」

ギガさんがサイバー都市へと帰ったあと、1人のこされたハレクラニさんは、どこかへ避難する間もなく、あの3バカに捕まってしまった。どうやら神様は、私の次はハレクラニさんを嫌いになろうと決めたらしい。
さっきから立て続けに、何かが爆発するような音と、ハレクラニさんの絶叫が聞こえている。

「あの3人連れ出してくれないかな、なんか適当にうまいこと言って」
「でも、それじゃなまえさんが1人に……」
「そうですよ、オレも残ります!」

やさしい2人の気遣いに、私は胸の張り裂ける思いで首を振った。後ろで何かの割れる音と、ハレクラニさんの怒声。私の肩越しにあの3人を見るふたりの目の輝きが、だんだんと消えていった。

「ごめんね。頼んだ」

ビュティちゃんとへっくんの肩に手を置いて頭をさげる。2人は黙って頷いた。




私が最初に足を踏み入れた光景を、もはや想像できないまでに破壊されたマネーキャッスル。
あの3バカは、2人がなんとか説得(っていうか釣った)して、今から数10分前に、わーい遊び放題だー!と狂喜の声をあげて走り去って行った。
それまでの間に、完璧に磨かれた大理石の床には月面ばりのクレーターが発生し、美しい色彩の差し込んでいたステンドグラスはすべて割られ、豪華だったアラベスクの壁はところどころ穿ったような穴が口を開け、なかの鉄筋がむき出しになっていた。あの3人はいつ何時1円玉にされても文句は言えないだろう。っていうか言わせない。
そんな惨状のなか、奇跡的に無傷の、あの高そうな午後のお茶会セットが載ったテーブルと同シリーズの椅子に腰掛け、半ば放心状態で壁に開いたひときわ大きな穴を見つめるハレクラニさん。
私が名前を呼ぶと、緩慢な動作で身体をこちらに向け、まだ壁の穴を見つめている顔を、一呼吸おいたあとで私に向けた。

「なんか、本っ当に申し訳ございませんでした……!!」

私は正面で土下座をしながら謝罪する。

「お前を責めるつもりは初めからない。そんな地べたに座っていないで椅子に座れ」

ハレクラニさんはため息をついて眉間に手を当てながら、もう片方の手で払う動作をした。私は素直に立ち上がって、向かいの椅子に腰掛ける。これも奇跡的に、テーブルの上のものは私が来たときのままだった。若干ホコリを被ってはいたけど。

「ギガが言っていただろう。お前を迎えに行くだなんだと」

用意したカップに紅茶を注ぎながら、ハレクラニさんは口を開いた。段々と満ちていく紅茶をじっと見つめていた私の頭は、少し遅れて言葉の意味を理解する。そういえば、ギガさんがそんなことを言っていたような気がした。直々に、とか、悪いことした、とかなんとか。

「ええ、確か」

私は曖昧に頷いた。砂糖は。と聞かれたので、大丈夫ですと答える。

「あんな連中と四六時中共にいては、さぞ疲れるだろう。たまにはゆっくりお茶でもどうかと思ったんだが、」

ちょ、ハレクラニさんめちゃくちゃいいひとじゃん!? 誰だよ金ヅルとか言ったの!
感動のあまりジーンとして固まっていると、ハレクラニさんは私の前に紅茶を差し出してくれた。お礼を言って紅茶に口をつけたところで、ほんの10数分前に出て行ったビュティちゃんが駆け込んできた。何事かと思って席を立つ。

「なまえさんごめん!あの3バカもう手に負えない!!へっくんもチョーカー取れちゃったし!!」

ビュティちゃんは絶叫して床に座り込んだ。やばいな、ビュティちゃんがこんな状態になるって事は、もう本当に相当やばい事になってるんだな……!!
突然、バブーー!!という声が聞こえたと思ったら、ボーボボさんたちが来る時に突き破った壁から、巨大化したへっくんが見えた。しかも、へっくんの顔にはあの3人がいて殴る蹴るの暴行を加えていた。いや、仲間になんてことしてんの!?

「あいつら何やってんのよーー!!」

怒声を上げたビュティちゃんはまた駆け出していってしまう。私も後を追いかけないと……。
ああ……、せっかくハレクラニさんが気を遣ってくれたのに一瞬で台無しになってしまった。

「すみません、せっかく気を遣って頂いたのに…」
「いや、気にする事はない。……お前も本当に大変だな」

ハレクラニさんはそう言って、ものすごく同情的な顔をする。私は、ハハハと乾いた笑いを返す事しか出来ない。

「いつでも連絡してくると良い」

そう言うと、ハレクラニさんは金色に輝く1枚のカードを差し出した。受け取って見てみると、そのカードは名刺だったらしくハレクラニさんの連絡先が華奢な字体で書かれている。

「今度こそ、私が直々に迎えに行こう」

私が名刺から顔を上げると、組んだ両手の上に顎を乗せて、ハレクラニさんは優雅に微笑んだ。


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