思いっきり鼻の下を伸ばして、でろでろに溶けたチーズのような笑顔の男”黒足のサンジ”を目の前にして、シイラはもう苦笑するしかなかった。

「シイラちゃんっていうの? カ〜ワイイなァ〜〜!!」

文字通り目がハートになるほどご機嫌なサンジとは対照的に、シイラの両隣に座るシャチとペンギンはあまりいい顔をしていない。まだ同盟関係にあるからとはいえ、一応は敵同士であるシイラに馴れ馴れしく接していることも気に食わなかったが、なにより、しれっとシイラの手を握っているのが許せない。二人の心境は一致していた。
いまこの場にキャプテンがいてくれれば抑止力になったのかもしれないが、どこへ行ったのやら、さっきから姿が見えない。
”瞳がきらめく宝石のようだ”とか、”髪がうつくしすぎて絹かと思った”とか、”きみは例えるなら可憐に咲く白百合の花だ”とか、女性ならば悪い気はしないであろう(歯が浮くような)セリフばかり並べ立てるサンジだったが、シイラの表情は困ったような笑顔から一向に変わる気配がない。
どうやって追い払おう。
シャチとペンギンは苦笑するシイラを見ながら考えた。せっかくの宴の場だ、ヘタに突っかかっていっていざこざを起こすのは避けたい。かといって、丁寧にお願いしたところで、この男が素直に引き下がるとは到底思えなかった。
なんの行動も起こせないまま、ことの行く末を見守る二人。ふと、シイラがなにかに気づいたようにサンジの背後に視線を投げる。

「あ、オレンジの髪のお姉さん」

そこからの展開には目を疑うものがあった。サンジは光の速さで後ろを振り向くと、オレンジの彼女の名前を叫びながらものすごい速さで去って行く。さながらハリケーンだ。しかも、女の名前のついているやつ。そういえば、”恋はいつでもハリケーン”という、東の海の諺をペンギンは聞いたことがある。なるほど、まさに。

「……え、いた?」

シイラの指差した先に、その姿を確認できなかったシャチが首を傾げる。
シイラはバツの悪そうな顔で首を横に振った。

「お引き取り願う方法、これしか思いつかなくて……」

ああ。と笑顔で頷くシャチとペンギン。ことを荒立てずにお引き取り願えたのだから結果オーライだ。嘘も方便というし。
やっと解放された手を頬に添えると、シイラは感慨深そうにつぶやいた。

「でもすごいよね、あんなに素直に感情表現できるの。……ちょっとうらやましいかも」
「いやァ……、シイラもたいがい素直だと思うよ、おれは」

かくいうシイラの感情表現も、サンジに負けず劣らず(あそこまでおおっぴらではないにせよ)素直であることを知っているペンギンはそう請け合った。
そうかなあ、と少し照れたように笑いながら首を傾げるシイラ。シャチとペンギンが微笑ましく思いながら頷いていると、後ろから三人を呼ぶ声が聞こえてきた。振り返ってみたら、なにやら両手にいっぱいの食べ物を抱えたベポがにこにこしながら向かってくる。手に持ちきれなかったらしいリンゴ飴は、どういう原理なのか、そのモコモコした頭にしっかりと突き刺さっていた。……いや、どうやって?
頭のリンゴ飴を凝視する三人をよそに、ベポは抱えてきた食べ物を次々と並べていく。

「これ、シャチに!」
「……お、おう! ありがとな……」
「こっちはペンギン!」
「……あ、ああ! 悪いな、ありがとう……」

お礼を言いつつも、視線がすぐにベポの頭へと戻るシャチとペンギン。
そしてついに、ベポが頭のリンゴ飴へと手を伸ばした。ゴクリ、と三人の喉が鳴る。どうか、本当に突き刺さってて血とか出ていませんように……!! 三人は祈るように手を組んだ。
しかし、リンゴ飴は三人が覚悟していたよりもはるかにあっけなく抜けた。抜き取ったと思われる音さえしなかった。拍子抜けしたような、安心したような……、三人の胸の内は少しだけ複雑だった。
そんなことはつゆ知らず、ベポは抜き取ったリンゴ飴を、いっそうニコニコしながらシイラに差し出す。

「シイラにはこれ! きれいだったから!」

確かに、それはきれいだった。周囲の明かりを反射してきらきらとかがやく様子は、まるでガラス細工のようだ。シイラはベポの手からリンゴ飴を受け取ると、ガラス細工にも負けない、まぶしい笑顔をうかべる。

「ありがとう、ベポ!」

だいすき、と付け足された言葉に、ペンギンは人知れず「ほらな」と、笑みを含んだ声でつぶやいた。


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