「先生、ツッコミがお上手ですね。私と漫才やりません?」
「やらん。レイブンクロー、5点減点」
「ええ?! 冗談ですよ! 大体、そんなコンビ売れるわけないじゃないですか!」
「……お前に”舌縛り”をかけてもいいのだが、減点される方が好みかね?」
先生はそう言って、不穏に首を傾げた。右手に持った杖で、左の手のひらをゆっくりと叩いている。どうしよう、ガチだ。
私は素早く右手を口の端に持ってきて、チャックを閉めるジェスチャーをやってみせる。私を数秒間睨みつけたあと、彼はそっけなく頷いた。それから、嫌な事でも思い出したかのように、唐突に顔を歪める。私なんかしたかな……。
「先週のレポートだが、」
「……なにかおかしかったでしょうか」
疑問符をつけると口答えしているみたいに聞こえるので平坦な発音で言い切った。”か”を”が”にするべきだったと言い終わった瞬間に気付く。
先生は、実に不本意ではあるが、とでも言いたそうな顔で、しかも、抵抗する口を無理矢理こじ開けて発音しているような、押し殺した声でこう言った。
「完璧だ」
言い終わった瞬間、彼は、私の喜ぶ顔など見たくもないと言うように、その場でくるっと後ろを向いた。
「よって、実に不本意ではあるが、先程の減点は帳消しにしてやろう。……レイブンクローに5点」
先生は、実に、の部分を殊更強調して言った。確かに、今回のレポートに自信があったのは事実だが、高い評価がもらえるんじゃないかな、ぐらいに思っていただけで、加点されるとは思ってもいなかった。……実質+−ゼロだけども。漫才の事なんか言うんじゃなかった。
先生もそう思ったらしく、「余計な事を言わなければ良かったものを」と言って、フンと鼻を鳴らした。せっかくくれてやった5点を無駄にしおってこの馬鹿が、という意味なのはほぼ間違いない。