愛してるで撃ち抜く


もともとの原因はあの金髪の彼だったとは言え、ただでさえ短気な彼の機嫌を損ねない為にはもう少し配慮が必要だったのではないのかと、考えたところでもう後の祭りだ。
例えわたしが何もされていないと言ったところで、彼からすれば既に声をかけていたという時点でアウトだったのだろう。もちろんそれだけ気にかけてもらえているということ自体は嬉しいが、ものには限度というものがある。

シンジュクの一行と離れたわたし達二人は、一旦他の二人とは行動を別にし、今まさに用意された中央区のホテルへ足を踏み入れたところだった。


「チッ……あのホスト野郎」
「まだ言ってるの。もういいでしょ」
「俺はあぁいうチャラチャラした野郎が一番嫌いなんだよ」
「だからってしつこすぎよ。先生も謝ってたじゃない」
「それとこれとは話が別だ」
「いつからそんな心の狭い男になったの?」
「あぁ?」
「そもそもあのホストが何を言ってきたところで、わたしの一番が自分だってことは知ってるでしょ」
「……まあな」
「ならもうこれ以上文句言わないで」
「……」
「左馬刻」


名前を呼んで、不満げに振り向いたその顔へ一つ触れるだけのキスを落とした。

彼は身長が高い。故にそんな彼の隣を歩く時はいつも少し高めのヒールを履くのだが、それでも届かない頬に一瞬だけ背伸びをすれば、踵が浮いて不安定になった足元がぐらりと傾き音を鳴らした。


「わ、」
「っぶねーな、」
「ふふ、つまづいちゃった」
「打算だらけのクソ女みたいなことしてんじゃねーよ」
「でもキスは嬉しかったでしょ?」
「あ?するなら口にしやがれ」


一瞬ふらついたわたしの体をしっかりと支えた左馬刻は、そのまま近付いた体に腕を回してニッと笑った。
どうやら頬にキスをしたことで、燻っていた苛立ちの何割かは消化することが出来たらしい。

腰に回された腕はそのままに、訪れたエレベーターホールでやって来たそれに乗り込むなり、一瞬で人がいないことを確認した彼は、グッとわたしの体を引き寄せ、囁くように口を開いた。


「#name1#」
「ん?」


左馬刻は、いつも唐突だ。
名前を呼んで、振り向いたわたしの唇に自らの唇を重ると、そのまま流れるように角度を変えて貪るようにわたしの唇を奪っていった。
キッカケが何かは分からない。しかし、もうこうなってしまえば全ては彼の手の中だ。
四方を壁に囲まれた薄暗いエレベーターの中で、激しく重ねられた唇に逃げ道を作ろうと顔をそらせば、すぐにそれに気付いた左馬刻がそんなことは許さないとばかりにわたしの顎へ手を添えた。


「逃げてんじゃねぇぞ」
「……っ、は、……」
「口開けろ」
「さま、」
「……」
「っ、ん…」


左馬刻、と呼びかける声すら飲み込むように重ねられた唇が、まるで全てを突き崩していくかのようにわたしの頭の中を支配していった。
確かめるように、強引に塞がれるそれが止まることはない。

幸い、エレベーターは徐々に上へ上がっていくだけで今のところどこかへ止まる様子はない。しかし、それも今のこの瞬間までの話だ。次の瞬間にはどうなっているかなんて、分からない。
考えている合間にも、止まることなく送られる執拗な口付けにいっそ全てを預けてしまおうか。酸素を求め、うっすらと開けた唇の隙間から強引に舌をねじ込んでくる彼の腕にしがみ付きながらそんなことを考えていると、不意に音を鳴らしたエレベーターの機械音にハッとする。


「……お前こっち向いとけ」
「、」


止まった階は、わたし逹の下りる階ではない。故にこれから誰かが乗り込んでくることを見越してそう言った左馬刻の言葉に、もはや立っていることさえギリギリだったわたしは、素直に頷き身を任せた。その際グッと引き寄せられた頭は、ちょうど彼の胸元に押し付けられるようにして収まり、下を向く。
酸欠状態になった頭で、早くこの緊張状態が過ぎればいいのに、と思わず目の前にいた彼の白いシャツをギュッと握りしめた。


「、良い顔だな」
「……左馬刻」
「平気だ。誰もいねーよ」
「……」
「んな顔したお前見せるわけにゃいかねーと思って焦ったが、杞憂だったな」
「……」
「んな睨んでも可愛いだけだわ」
「左馬刻ずるい、」
「どこがだよ」
「全部」


扉が開いただけで誰も入ってくることはなかったエレベーターの中、そう言って目の前にいる彼の方へ再び頭を押し付ければ、それを笑って受け入れてくれた彼の優しげな声が降ってくる。
どうやら、余程機嫌が良いらしい。
普段なら彼の口から出ることはあまりないでろうその言葉に、思わず頬が緩むのを抑え顔を上げると、そんなわたしの顔をジッと見つめた彼は、特に表情を変えることもなく呟いた。


「#name1#」
「なに」
「アイ、ラブ、ユー」
「……」
「ばんっ」
「……」


左馬刻の顔は至って普通だ。いつも通りの無表情で、ただ唯一銃の形にして向けられた指だけが、その表情に似合わず可愛らしくて参ってしまったのは言うまでもない。

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