それはピンク色の毒


テリトリーバトルに参加する各ディビジョンの代表者は、良くも悪くも有名人だ。そのチームの拠点となるディビジョン内ではもちろん、中央区でもその存在はよく知られている。
そもそも、各チームの代表を務めるリーダーが元々は同じチームとして絶対的な地位を築いていた四人だ。彼らがある日突然解散したこと、そしてそのまま別のディビジョンでチームを組んだこと。ただでさえ話題の元となるそんな四人が今回初めて一堂に会し、ぶつかるのだ。きっと何事もなく終わるなんて事はないだろうと思ってはいたものの、いざその状況に陥ってみると参るものだ。


「#name1#〜 おっひさ〜!」
「!ちょ、乱数くん、」
「相変わらず左馬刻なんかと一緒にいるんだ!物好き〜」
「オイ乱数テメェどういうつもりだぶっ殺すぞ」
「きゃ〜 左馬刻様こわ〜い」


ホテルを出て早々、見つけた!と言わんばかりの勢いでかけてきた姿に腕を引かれるも、一歩遅かった。
右手を左馬刻に掴まれたまま、ガッと抱きついてきた小さなピンクをなんとか受け止め、苦笑いを返す。にっこり笑ってすりすりと頬擦りをする姿は、まるで人懐っこい動物のようだが、わたしは知っている。彼の本質はとてもそんな生易しいものではないということを。


「#name1#ちゅ〜」
「しないよ」
「えぇ〜 いいじゃ〜ん!別に減るもんでもないんだし〜」
「ダメ。左馬刻以外とはありえない」
「ちぇっ、そういうところ全ッ然変わってないね!」
「乱数くんこそ」


相変わらず、ニコニコしているだけで本心なんて見えたことがない。どこにいても隙を作らず、ただいつも周りに対して可愛らしい笑みを浮かべているだけの彼の姿は、まるで人形のようだと思う。
最後に会ったあの日から、何も変わってはいない。


「つーわけだ乱数。分かったら離せ」
「え〜」
「え〜じゃない」


出来れば、あまり関わりたくないのだ。
もともと、左馬刻の仲間として確固たる地位を築いていたあの3人の中でも、彼の存在だけは異質だった。他の3人が一部の女性たちによって牛耳られたこのおかしな世界を変えようと、一つの目的を見ている一方で、乱数くんだけはいつも何か他のことを考えているように思えたから。もちろん、彼自身が何か特別なアクションを起こしていたというわけではない。しかし、いつも他の3人からは一歩引いた所で事の成り行きを見守っているその姿に、違和感を覚えたのは当然のことだろう。左馬刻自身が彼のことをどう思っているのかは知らないが、わたし個人的にはどうにも苦手な相手だ。


「ほんと、相変わらず左馬刻ばっかり」
「当たり前でしょ。わたしは左馬刻のものなの」
「へぇ、さすが。自信満々」
「良い女だろ」
「はいはい。あ〜 うっざー」


わたし達2人のやり取りを見てやっと気が済んだのか。パッと手を離して悪態をつきながら元いたメンバーの下へ帰っていく姿にホッとした。少なくとも気を張る相手だ。久しぶりの妙な緊張感から解放され、そういえば掴まれたままだったと隣にいる彼に拘束されていた手に力を入れれば、その瞬間「あぁ、」と思い出したように離された手が自由になる。

思えば、そのまま掴まれていても良かったのだが、さすがにそれではベタベタしすぎだろう。
離された手を繋ぎ直そうとして数秒。あくまでもここに戦いに来ている彼のことを考え、もう一度繋ぎ直そうとした手をスッと引っ込めれば、どこからそれを見ていたのか。ふ、と静かに鼻で笑う音が聞こえて、やってしまったと思った。


「なんですか銃兎さん、」
「いいえ、貴女にも案外可愛いところがあるんだなと思いまして」
「あ?」
「無意識に好きな男の手を追いかけるだなんて、いじらしすぎて思わず笑ってしまいましたよ」
「!そっ、え…言う!?」
「おや、いけませんでしたか?」


絶対にわざとだ。十中八九意図的にバラされたであろうその無意識の行動は、目の前でニヤリと口角を上げる彼にとっては格好のネタになるのだろう。その目論見通り、焦るわたしを見て事の経緯を理解したであろう左馬刻の表情がとてつもなく上機嫌で、思わず「う、」と息を呑んでしまった。
最悪だ。最高に意地悪な顔をしている。


「んだよ#name1#ちゃん、そんなに俺様のおててが恋しいか?」
「……」
「だ〜い好きな左馬刻様の手だもんな。そりゃ繋ぎてぇよな」
「………」
「珍しいな。照れてんのか」
「……」
「可愛いやつ」


言葉と同時に、ふ、と笑ってすくい取られた手が彼の大きなそれに包まれた。
悔しい。とてつもなく腑に落ちないが、それでも好きな人の温もりというのは嬉しいものだ。
自分の意思に反してじんわりと温かくなる手に視線を落としながら、せめてもの仕返しにとぎゅっと力を込めてその手を握り返した。


「っ、てぇなバカ」
「でも嫌じゃないでしょ」
「クソ生意気なこと言いやがって」
「左馬刻様」
「あ?」


名前を呼んで、振り向いた彼に笑みを返した。
伝える言葉は決まっている。
大好き。頑張って。
例えありきたりだとしても、どうしても伝えたいと思ったその言葉を紡ごうと口を開いた瞬間。#name1#さん、とどこかから聞こえてきた自分の名前を呼ぶ声が、わたしの言葉を遮った。

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