貴方だけに囁く好き
「今日はMAD TRIGGER CREWの皆様テリトリーバトルお疲れ様会なので、わたしの奢りです!好きなだけ飲んで食べてください!」
ヨコハマの一等地にある大きなタワーマンションの一角。上から数えた方が早い広々としたその場で、今まさに準備が終わったばかりの料理たちを並べるわたしは、久々の来客に大いに張り切っていた。
「つーわけだ前ら。わざわざ俺様の女が腕奮ってやったんだからありがたく思えよ」
「これは全て#name1#さんが?」
「もちろんです!ビーフシチューに関しては2日前から煮込みました!自信作なのでぜひ!」
「そうか。#name1#は料理上手なのだな。言ってくれれば小官も材料探しから手を貸したのだが…」
「ありがとうございます理鶯さん。でもわたし最初に言いましたよね?これは皆さんのお疲れ様会だって」
「そうですよ理鶯、せっかく#name1#さんがわたし達の為に準備してくれたんですから、ここは素直にお言葉に甘えましょう」
にこりと優しげに微笑んだ銃兎さんに宥められ、今にも立ち上りそうだった理鶯さんが、なんとかその場に留まった。
皆表面上はとても遠慮がちに言葉を選んではいるが、心中穏やかではないだろう。その証拠に、普段どれだけ窮地に立たされようが、滅多なことでは表情を崩さない左馬刻の顔が引きつっている。これは相当なことだ。
わたしは話にしか聞いたことがないのでよく分からないが、そんなにも酷いものなのだろうか。理鶯さんの料理というのは。材料探しと言う時点で既におかしいとは思ったが、これ以上詳しく話を聞いても怖いだけだ。深く追求するのはやめようと、なんとか手伝いを制してくれた銃兎さんの言葉に合わせて、わたしもいただきますと並べた料理に手を合わせた。
「お酒が足りなくなったら言ってくださいね。今日は希望があればカクテルも作りますよ」
「ほう、#name1#はそんなことも出来るのか」
「はい!昔たくさん勉強したので」
「俺様の為にな」
「その情報いるか?」
まずはビールで乾杯をしようと、3人がグラスに注いだそれを飲み干したところで、宴会は始まった。
左馬刻はもちろん、当たり前のように大きなソファを陣取って足を組んでいる。お酒の席とは言っても、メンバーがメンバーだからだろうか。いつもはそこまで羽目を外さない彼も、最初からだいぶリラックスしているように思えた。
やはり、気心知れたチームメンバーとなんの上下関係もなく、こうしてただお酒を飲み交わすというのは楽しいのだろう。普段ならあまり見られない左馬刻の屈託のない笑顔を見て、やはりこの会を開いたことは正解だったと思う。
「オイ#name1#」
「ん?」
「テメーも俺らの世話ばっかしてねぇで飲めよ」
「ありがとう。ちゃんと貰ってるよ」
「んなもん飲んでるうちに入んねーだろうが」
「あ、ちょっと……」
「飲め」
「もう……」
空いたお皿を片付けようと伸ばしたはずの手に、そう言って持たされたのは、今まで彼が飲んでいた度数の高いシャンパンが入ったグラスだった。
綺麗な黄金色の中をふわふわと昇っていく気泡は、それがまだ注ぎたてであることを表しており、思わずゴクリと喉を鳴らしたわたしに気が付いたのだろう。隣でケラケラと笑う左馬刻が、もう十分もてなしてもらったからよ、と満足度に呟いてから、なあ?と他の二人にも顔を向けた。
「えぇ、これだけのご馳走を用意していただいたんです。十分ですよ」
「#name1#の料理は最高に美味かった」
「へへ、そう言ってもらえると嬉しいです」
普段あまり左馬刻以外の人に料理を振る舞うことがないわたしにとって、お客さんである二人からそう言ってもらえるのは素直に嬉しかった。
たくさんの観衆に囲まれ、傷付き、それでも戦い抜いた彼らは、わたしにとって何よりの誇りだ。例えその結果が一番に求めていたものではなかったとしても、あの時、あの場で全てを賭けて戦っていた姿は、きっとわたし以外の脳裏にも深く焼き付いていることだろう。
もちろん、言葉では幾度となくそんな3人を労ってきた。ボロボロに傷付き、至る所から血を流す彼らを、何度も何度も手当した。しかし、そんな業務的な作業ではなく、わたしはわたしなりに、なんとか精一杯戦い抜いた彼らを労ってあげたかったのだ。
形は、ただの食事会。しかし、その中に隠されたわたしの本心など知るはずもない3人は、それでもそんなわたしに感謝し、笑ってくれた。ありがとう、というその一言が嬉しくて、思わずへらりと笑ったわたしは、きっととてつもなくだらしない顔をしていたことだろう。
「本当、可愛らしいですね、貴女は」
「え……」
言われた言葉に、つい緩んでしまう頬をなんとか抑えようと、左馬刻から手渡されたグラスに口を付けようとした時だ。何を思ったか。突然そう言って優しげに微笑んだ銃兎さんの姿に、思わずポカンと口を開けてしまった。
「オイ銃兎テメェどういうつもりだ」
「そのままの意味ですよ。嬉しそうに笑っている顔がとても可愛らしかったので」
「ッ、ふざけんなテメェなに見てやがんだ!死にやがれ!」
「ちょ、左馬刻!」
沸点の低い彼のスイッチを一瞬でオンにした銃兎さんは、何食わぬ顔でグラスに口を付け、笑っている。大方わたしのことになると過剰に反応する左馬刻の様子を見て、楽しんでいるのだろう。今にも人一人殺してしまいそうなほど血走った目を向けている左馬刻のことを見ても全く動じていないあたり、やはりその言葉が彼をおちょくる為の冗談だということは一目瞭然だ。
お酒の力もあってか、いつもなら軽く流すであろうその言葉をすぐに鵜呑みにしてしまった左馬刻は、そのまま力任せに目の前にいた銃兎さんの胸倉を掴み上げ、口を開いた。
「確かにな、#name1#は可愛い」
「え……」
「特にテメェの言う通り笑った顔なんかは最高だ」
「さま、」
「けどな、その顔を見て可愛いって褒めてやるのは俺様の特権なんだよ」
激昂し、怒りのままに口を開いた彼が何を言うのかと思えば、これである。
本人はいたって普通の顔をしているが、その口から発せられた言葉がどれだけ恥ずかしいものなのか、彼はきちんと自覚しているのだろうか。
「………酔ってるな、お前」
「あ?酔ってねーよ」
「#name1#は好きか?」
「テメェなに当たり前のこと聞いてんだ好きに決まってんだろふざけんな」
「だとよ」
「いやわたしに振らないでください…」
掴まれた胸倉はそのままに、首だけをこちらに向けた銃兎さんが呟いた。
しかし、そのアイコンタクトすら気にくわなかったのだろう。チッと盛大に舌打ちをした左馬刻が、掴んでいた銃兎さんの胸倉を乱暴に離してからこちらに歩み寄った。
「オイ#name1#」
「、なあに?」
「お前は俺様の女だ」
「はい」
「他の男にヘラヘラ愛想振りまいてんじゃねぇぞ」
やはり、とてつもなく酔っているのだろう。本人は絶対に認めようとしないが、正常な判断能力があれば、彼はそもそも他人がいる前でこんなにも感情を表に出すことはない。
目の前でジッとこちらを見つめたまま、少しだけ潤んだ目を尖らせている彼の姿は、それだけでいとも簡単にわたしの心を絆してしまうのだから、困ったものだ。
「左馬刻」
「なんだ」
「大好きよ」
例え他の誰かに愛想を振りまくことがあっても、わたしがこんなに満たされた気持ちで愛を囁きながら、幸せを噛み締めて笑う相手は貴方しかいない。
呟いたその一言に、ありったけの気持ちを込めてニコリと笑えば、そだけでわたしの言わんとしていることは伝わったのだろう。少しだけ間を置いてから「おう、」と安心した様に目元を緩めて笑う彼の姿に、思わずもう一度大好き、と呟いてから腕を伸ばした。
「ふふ、さまとき…」
「んだよ、」
「#name1#って呼んで?」
「#name1#」
「ふふ、」
「………可愛いやつ」
((全然違ぇな、俺に向ける笑顔とは))
((あんなに幸せそうな顔で笑うのか、))
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