降り注ぐ愛に埋まる
「左馬刻」
「……」
「左馬刻さん」
「………ん……」
「左馬刻、朝だよ」
「……おぅ」
「ふふ、寝ぼけてるの?」
朝の訪れと同時に閉め切っていたカーテンを開けば、途端に差し込む日差しは、寝起きでまだ目も開けていない彼には少し刺激が強かったようだ。
まるで子どものように枕を抱きしめて日差しから顔を逸らす姿は、普段の彼からは想像も出来ないほどに可愛らしい。
「目玉焼きとスクランブルエッグ」
「……スクランブル…」
「コンソメスープかコーンスープ」
「コンソメ……」
「おでこかほっぺ」
「口にしろ、」
ムッと眉を寄せたままそう言って薄目を開ける彼の声は掠れている。しかし、話しているうちに段々とその意識は浮上しているのだろう。最後の質問ですがるようにこちらへ伸ばされた腕を掴むと、するりと絡められた指がわたしのそれと重なった。
「キスしていいの?」
「いちいち聞くな、」
「じゃあ、ん」
導かれるように、誘われるように。未だベッドで転がっている彼に覆い被さるように唇を重ねれば、ちゅ、と可愛らしい音を立てて触れ合った唇がわたし達二人の距離をゼロにした。
朝の乾燥した空気のせいだろうか。いつもより少しカサついた彼の唇は冷たく、思わず自分のそれを押し付けるようにして一度だけ角度を変えれば、それに答えるように薄く開けられた唇からは、当然のように彼の長い舌が伸びてきた。
「…、だめ……」
「……」
「…左馬刻、わたし……ご飯作らなきゃ、」
「んなの後でいいだろ」
「でも、今日は銃兎さんたちが……っ」
「るせぇな」
「んっ、…!」
昨日の宴会の後、ひとしきり飲んだ彼らの中で、一番最初に寝る、とリビングを後にしたのは左馬刻だった。よほど気持ち良く酔えたのだろう。いつもならお酒を飲んだ翌日でも一度は目を覚まし、遅くとも10時前には起きて来るのだが、珍しくその時間になっても起きて来ない彼のことを心配し、様子を見に来ればこの有様である。
来客用の空き部屋を貸し出し、先に起きていた銃兎さんと理鶯さんの話を持ち出した瞬間、まるでこれ以上喋るなとでもと言うように無理矢理口を塞がれた。
「ちょ、っ……さま、」
「るせぇ、喋んな」
「っん……、っ」
「、」
「……っゃ…」
寝ていた彼の体にかぶさっていたわたしの体は、そのまま一瞬で力任せに腕を回した左馬刻の方へ引っ張られた。
衝撃で中途半端に羽織っていた室内用のガウンが床へ落下し、中に着ていたレースタイプのキャミソールがヒラヒラと無防備になったお腹を晒していた。
「テメェまたんな格好で……」
「ん、まって……ちが、っ」
「何がちげぇんだよ、部屋にいんだろ、アイツら」
「そ、だけどっ……」
「俺以外に見せんな」
「っ、………ぁッ」
羽織るものがなくなったことで、露わになった首筋へ彼の唇が触れた。
ちゅ、とわざと音を立てるように口付ける左馬刻のそれは、そのまま何度も同じところに角度を変えては食らい付き、もう一度、もう一度と、少しずつ場所を移動しながらも、離してくれる様子は微塵もない。
それどころか、彼の唇はその愛撫にすっかり息を上げるわたしの胸元まで到達し、やがてそこに誰の目にも明らかの所有の跡を残した。もちろん、一つや二つではない。わたしがいくらやめてと言ったとろこで、彼の気が済むまで付けられたそれは、きっと全ての数を把握することなど出来ないほどになっているだろう。
「……ゃだ、…も、…」
「#name1#、」
「っ、……」
絶え間ない口付けに、すっかり惚けて涙すら浮かぶわたしの瞼にキスをした左馬刻は、優しかった。
そのままくたりと自分の腕の中に落ちるわたしを抱きしめ、スルスルと広がった髪に指を通すのはいつものことだ。
ようやく、少し気が晴れたのだろう。
「さまとき……」
「…んな声で呼ぶな。抱くぞ」
「……ん…」
「テメェ煽ってんだろ、」
上から降ってくる左馬刻の声に、応えるようにして体を寄せた。
ふわりと、よく知る香水の匂いに少しだけ混ざったタバコの匂いが鼻をかすめて、わたしを安心させる。
気持ち良くて、ふわふわと上気した体にもう一度彼の腕が回されれば、そこで全てを預け、目を閉じてしまいたくなるのは致し方のないことだろう。
そういえば、銃兎さんと理鶯さん、リビングで待たせたままだ。一応コーヒーだけは淹れておいたけど、それだけじゃすぐに飲み終わってしまうかな。
嫌だな。行きたくない。今こうしてこの腕に抱かれている時間を、一秒でも長く味わっていたい。終わりたくない。左馬刻とずっと、いつまでもこうして抱き合っていたいーーー。
* * *
「意外だな。お前、そうまでされて待つことも出来るのか」
「るせぇよ、見てんじゃねぇ」
「フッ、これこれは…失礼しました」
「幸せそうに寝ているな、#name1#は」
「っだから見るんじゃねぇっつの!」
「………ん、」
「ほら左馬刻、大事な大事な#name1#さんが目を覚ましてしまいますよ。お静かに」
「〜〜っ」
大切で大好きな左馬刻の腕の中、いつの間にか眠ってしまったわたしを、文句一つ言わずに抱きしめてくれた彼が、その後待ってましたと言わんばかりに目を覚ましたわたしに牙を向くのは、そう遠くない数時間後の話である。
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