痛みを消し去る方法
「さまとき、お腹痛い…」
「あ?」
「助けて」
「どうした」
「死ぬ」
キングサイズの大きなベッドの上。朝目を覚ますなりサイドテールに置いてあった煙草へ火を付けようとする彼のことを逃すまいと、男性にしては細すぎるその腰へ抱きついた。
「朝から大胆なこった」
「違う…お腹痛いの、」
「あぁ、わーってるよ」
「さまとき〜」
「チッ、んだよ」
「うぅ〜…」
言葉はキツイが、必死に訴えかければなんとか異変には気付いてくれたようだ。起き抜けでさぞ面倒臭いだろうに。抱きついてきたわたしの頭を宥めるように撫でるその手は驚くほどに優しい。
思わずぎゅっと回した腕に力を込め、上体だけを起こす彼のお腹に無理やり頭を押し付けた。
「薬は」
「先月全部使っちゃった…」
「アホ」
「うぅ、」
「腹痛以外は」
「ちょっとだるい…」
「そんだけか」
「ん、」
「体重い感じは」
「ある、」
「なら寝てろ。まだ時間余裕あんだろ」
「左馬刻は?」
「安心しろ。まだ起きねーよ」
顔を上げれば、わたしの目にかかっていた前髪を丁寧に避けて耳にかけてくれた彼の指が、そのままするりと頬を撫でて唇に触れた。
「、なーに」
「んでもねぇよ」
「キスしたい?」
「別に」
「素直じゃないなあ」
「うるせーよ」
「ね、さまとき」
「なんだ」
「好き」
「おー」
「だいすき、」
「そうかよ」
腰に抱きついたわたしの頭を緩く撫でながら、咥えていた煙草を近くの灰皿へ押し付けた彼は、それ以降何も言わなかった。
ただ言葉の代わりに、何度も、確かめるように優しく押し付けられた唇が、不思議とわたしの全身から苦痛という言葉を消し去っていくようだった。
気持ち良くて、あたたかい。まるで彼に触れられた部分から、魔法にかかったかのように体が軽くなっていくような気さえした。
「左馬刻、」
「…ん」
「もっと…」
「……」
「…もっと、して、」
重ねられるそれが欲しい。貴方の温もりが欲しい。
触れられる度に強くなる欲求に抗うことも出来ないまま腕を伸ばせば、その指を絡め取った左馬刻がチッと一つ舌打ちをしてから、空いていた手でわたしの頬を軽く摘んで引っ張った。
「今そういうこと言うんじゃねーよ」
「ん、ごめん…」
「我慢してやるのは今回だけだからな」
「うん、」
「………」
「さまとき、?」
自分の腰に抱きついたわたしのことを見下ろし、摘んだ頬をふにふにと触る彼の行動に首をかしげた。
いったいどうしたのだろう。普段なら彼はこんな事しないはずなのに。無言でジッとわたしの頬を触り続ける目の前の彼に「どうしたの?」と再度声をかけようとした時だった。
「やっぱちげぇな、」
「?…違うって、」
「こっちの方が柔らけぇ」
「……」
頬を摘んでいた手が、そう言って寝転がるわたしの胸元へ移動した。
着ていた服の隙間からするりと入り込む手付きはもはや慣れたもので、まさかの言葉に固まっていたわたしも思わず「ちょっと、」と声を上げずにはいられなかった。
「んだよ」
「なんだよじゃないでしょ。何してるの」
「乳触ってる」
「……わたし今日はそういうこと出来ないけど」
「あぁ」
「ずっとそうしてるの?」
「お前もその方が気逸れるだろ」
「それはどうだろう…」
「うっせーな。いいから触られとけ俺がこうしてーんだよ」
「本音」
「仕方ねーだろ。俺だって男の子なんだよ」
半ば開き直った形で、べー、と舌を出しながら言う左馬刻の言葉に思わず笑ってしまった。
今さら男の子はないだろう。鋭い目付きを悪戯に細め、こちらを煽るようにニッと口角を上げる姿は、どこからどう見ても溢れんばかりの色気を含んでいる。
おかしな話だ。左馬刻もわたしも、互いにもうそんな歳ではないのに。それでも、その言葉を聞いてどこか納得した気持ちになってしまうのは、きっとそれが惚れた弱みというやつだからだろう。
結局、いつも彼の良いように言いくるめられている気もしなくはないが、それでわたしも幸せだと思ってしまうのだから困ったものだ。
「………確かに、ちょっと治ったかも」
「ほらな」
満足そうに、笑ってもう一度触れられた頬に目を閉じれば、それを合図に降ってくる口付けは、やはりいつもよりずっと優しいものだった。
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