明かされる素顔


いづみに言われて、なんとなく千景さんのことを考えてみた。
疑うより、ほんの少しでも彼の中にこちらへ歩み寄る気はないか。心を開いてくれる様子はないか。探ってみても良いのではないかと、思い始めた矢先だ。


「……能天気な奴らだな。お前の家族とやらは」
「……」


春組の面々が、なんとかして千景さんに心を開いてもらおうと努力している姿を見て、わたしもそれを無下にする訳にはいかないなと思っての決意だっが、それも陳腐なものだった。
ずっと何か隠しているとは思っていたが、まさかここまで人が変わったように悪意を剥き出しにする姿を見てしまうとは。残念ながら、微かに抱いていた希望も期待も、これ以上は意味がないようだ。


「密さんとは、昔からのお知り合いだったんですか」
「!、お前…」
「こんばんは。千景さん」


にこりと無駄のない笑顔で問いかければ、さすがにここでわたしが登場することは予想外だったのか。驚きの色に染まった表情は、それでもすぐにいつも通りの落ち着きを取り戻した。


「参ったな。どこから聞いていた」
「どこでもいいでしょう」
「待って、#name1#…」
「最近密さんの様子がおかしかったのって、このせいだったんですね」


最初は、中庭でわたしと千景さんが話をしていた時。それから、ここしばらくは毎日のように冬組のみんなが心配していた原因が、ようやく全て繋がった。


「ずっと、変な人だとは思ってました」
「うん、俺も。君にはなんとなく隠せないような気がしてた」
「弁解…しないんですか。得意の嘘で」
「しても意味が無さそうだからね」
「その潔さは好きです」
「はは、光栄だな。俺も君のことは嫌いじゃないよ」
「それも嘘ですよね」
「さすが。鋭いな」


にこりと笑って、いつものように向けられた笑顔がとても不気味だった。
サク、サクと彼が歩く度に地面の草を踏みしめる音が響いて、それが段々と近付き、わたしの目の前で止まると同時に、横からもう一つその音が増えて近付いてくる影があることに気付いた。


「#name1#に何する気」
「別に何も。ただ話していただけじゃないか」
「なら触るな」
「まだどこも触ってないだろ」
「……」
「触るっていのは、こういうことを言うんだ」
「!」


咄嗟にわたしと千景さんの間に入ってくれた密さんが、その言葉と同時に視界から消えた直後だった。


「っ、!」
「、#name1#…!」


急にいなくなった密さんを追って、視線をそちらに向けた瞬間。無理やり指でこじ開けられた口の中に、何か酷く苦い味が広がって思わずむせそうになる。しかし、それを許さないと言わんばかりにすかさず塞がれた口からその酷い味が消えることはなく、なんとかこの事態から逃げ出そうともがき暴れようとすれば、再び口内へ押し込まれた長い指が、そんなわたしの動きをいとも簡単に制した。


「、な…っん、」
「勝手に喋るなよ」
「!ぅ、っ」


苦しくて、思わずその手をどけようと腕に力を入れるも、何故か段々と全身から力が抜けていくような不思議な感覚に襲われ、体の自由が効かなくなる。
まるで痺れるように手足の感覚が遠くなり、やがて立つことも出来なくなった体を後ろから支えるようにして抱き抱えられると、次の瞬間微かに気管をかすった何かが、今にもどこかへ飛んで行きそうだった意識を呼び戻す。


「っ、……」


そのあまりの息苦しさに、生理的に浮かんできた涙すら、今は自分で拭うことさえ出来ないという事実に更なる涙があふれた。


「#name1#に何を…!」
「心配するな。死にはしない」
「彼女を離せっ」
「断る」
「っエイプリルっ…!」
「、っーーー!」
「動けば呼吸を奪う」
「#name1#っ、」
「お前がジッとしていれば指くらいは抜いてやるさ」
「…その後はどうする」
「さあ?どうしようかな」
「っん、…」
「黙って泣いていればそこそこ可愛いげがある。どう使うかは俺の自由だ」
「、ふ…っあ、」


言葉と同時に、今度は別の意図を持って動き出した指が好き勝手に口内を弄ぶ。
苦しくて、悔しくて。じわじわと滲み出る涙をそれでも拭う事は許されず、そのまま段々と狭まっていく視界に、わたしは抗う術を持っていなかった。

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