君の王子様になれなくてごめん

アルバート(14)…アルフレッド、オルディオの父。
カルデラ(13)…足が不自由な女の子



アルバートの家は決して裕福ではなかった。
出稼ぎで夜遅くまで働く父と、小遣い稼ぎに客の靴磨きをする自分との二人暮らし。
母は九年前に病気で亡くなった。ここ数十年で一気に流行りだした、鉱石病という病気でだ。
死ぬ間際、母は僕に「ごめんね」と言ったらしい。
父からその言葉を聞いてからずっと、自分の心にわだかまりをえ残している。
……母さんは、どうして、僕に謝ったんだろう。

それからというもの、僕は父に厳しく育てられてきた。
「男たるもの弱気になるな」「男たるもの強くあれ」「男たるもの女を守れ」等々熱心な指導の元、
時には反抗してみせると容赦なく拳が降ってきた。
父とのけんかは日常茶飯事だ。いつも倍にして返され、体中悲鳴を上げているけれど。

しかし、その日は気分が良かった。
14の誕生日の日。父は珍しく休暇を取り、僕を外に連れ一緒に遊んでくれた。
嬉しさのあまり僕は町中を走り回り、ふと、とある店の前に立ち止まった。
普段なら見向きもしない服屋の店。そこのマフラーや帽子がショーケースに並べられており、その中の一つに目が留まる。

――白地で、端に紫の線が二本入った新品のスカーフ。
父も仕事に行くとき、茶色いスカーフをしていた。元々は白色らしいけど、仕事での土汚れが蓄積されていったらしい。
僕は父のその仕事着が好きで、中でもスカーフには憧れを抱いていた。
「汚れは男の勲章」などと言っていたが、正直父のは臭そうなので巻いたことはない。
だから余計、ショーケースに飾られていたスカーフが眩しく見えた。

父はじっと動かない僕を察したのか、服屋の店内に入りそのスカーフを買ってきた。
その時の僕と言ったら大はしゃぎで。今思い出すと恥ずかしいくらいに喜んだ。
今まで欲しいものなんてなくて、あっても父には言わなかった僕が、初めて買ってもらえたプレゼント。
その日から僕は、毎日そのスカーフをまいて外に出かけていった。


15歳の今。僕は靴磨きの仕事から父を手伝う仕事に変わっていた。
炭鉱夫、というわけではなく、掘り当てた鉱物を選別、鑑定する仕事だ。
前よりも報酬が増えた分、町へ行く回数も増えた。

その日は一日休みで、気分転換に町のはずれの方まで歩いていた。




木の枝に引っかかったスカーフを取ろうと、アルバートは柵の上をよじ登る。
すると、開いた窓の中にいた女の子と目が合った。しまった、と思ったのもつかの間、油断したせいで足が滑り、地面に叩きつけられる。
逃げなきゃ不味いか?と上を見上げるも、此方を覗いてくる様子はない。もう一度策に手をかけると、どこからともなく扉の開く音がする。
今度こそ見つかったらおしまいだ!と、スカーフは諦めて逃げてしまった。

次の日、スカーフをもう一度取ろうと向かうと、なくなっていた。
あれは父からもらった大事なものだ。慌てて昨日と同じように上ると、また、女の子の姿が。
しかし昨日とは違う、女の子のベッドの横に、あのスカーフが置いてあった。
女の子は寝ているようだ、丁度いい。なら起こさないように、そうっと……。

「人様の窓から土足で入るなんて、礼儀のない人。許されるのは王子様のお迎えだけよ?」

びくり。少女は、起きていた。

「もっとも、あなたは王子様と言うより泥棒のように見えるけど」
「んなっ、泥棒なのはそっちじゃないか」
「あら、失礼ね。あの木には毎年巣作りのために小鳥がやってくるのよ。その場所に汚い布が引っかかっていたから取っただけ」
「だれが汚い布だ!返せよ!」

そうアルバートが言うと、少女は少し竦む。

「いいわよ。ほら、持っていけばいいでしょう」
「え」

唖然。あまりにあっさりと許しを得た。
何かされるんじゃ、とびくびくしながら手を伸ばすが、お咎めなし。
すんなりと取り戻せた。

「昨日の事、誰かに言ったか」
「いいえ、誰にも」




カルデラに沢山の旅の話をした。
しかし、それらは全てほら話だった。

カルデラとアルバートは、16歳になったら二人で旅をしよう、と約束をする。
カルデラの誕生日を祝おうとしたアルバートは、その日、本家にお見合いで呼び出された。
次の日カルデラの家にいくと、カルデラはいなかった。

カルデラは自殺した。唯一自由に動かせる、自分の手で。

「ワタシは自分で選んだのよ、後悔してないわ。だって、こうして今、アナタと共にいられるんだもの」

カルデラからペンダントを受け取っていたアルバートは、大事にそれを持ち続ける。そして毎年カルデラの誕生日に、カルデラの墓にお参りしに行く。
アルバートは嘘を本当にしようと、各地を旅することに。

その旅先で出会った女性が今の妻。アルフレッドとオルディオの母である。