「ありがとう。これは私が元に戻しておきますから、他の場所を探してもらえますか?」
「はい…!また何か見つけたら、今度は触る前に先にお伝えしますね」
「ええ、お願いします」
彼女はそう言い、少し申し訳なさそうな顔をする蘭に対して柔らかく微笑んだ。
「私はそこの角の布に覆われた辺りを見ますから、何かあったら呼んでください」
ぬいぐるみと袋を手に抱えた彼女がそこと指で示したのは奥の一角。
ここからでは詳しくは分からないが何か模様…円形の柄のある布に覆われている。
ぱっと見だが、1畳程度の横幅でそこまで大きくはなさそうだ。
「はい!…園子、こっち見てないよね?」
「うん、まだ見てないわ」
「………」
(蘭達と棚を探していて気が付かなかったけど、あそこは…)
此処にある殆どの備品が棚に置いてあったり箱に入っていたりと地面に直接触れない保管方法に対して、その一角だけが床に直置きされていた。
この倉庫を管理している人間とは別の人間が置いた可能性がある。
探偵の性とも言うべきか、少しでも違和感を感じた事は徹底的に解明したいところだが…。
優先すべきは先程蘭が見つけたぬいぐるみだろう。
俺はうさぎのぬいぐるみを調べるべく、一人でその一角を調べようとする彼女に駆け寄った。
「おねえさん!まって!」
「ん?なぁに、ボク」
「そのうさぎさんのぬいぐるみ、ボクにも見せて!」
「えっ…?これが見たいの?」
「うん!」
「んー、………」
彼女は手元のぬいぐるみと俺を交互に見比べ、若干眉を顰める。
すぐ拒否しないところを見ると爆弾ではないのだろうが、躊躇うというところはただのぬいぐるみではないのだろう。
…そもそも彼女には触った感覚でこれが爆弾かどうかの判別が出来るのか?という疑問が大前提として浮かぶが、もうこの際後回しだ。
子どもの俺に渡すべきか否か、判断に迷っている彼女にもう一押し。
「見るだけ!見るだけだから!それならいいでしょ?」
「……ほんとに見るだけだよ?」
「うん!」
はい、どうぞ。
そう言って彼女は俺にぬいぐるみをそっと渡してくれた。
「ありがとう!」
「いえいえ。ボクはうさぎさんが好きなの?」
「う、うん!かわいいなぁって!」
「へえ…そうなんだ。まあ、確かに可愛いよね、この子」
でもベタベタ触っちゃダメだよ?見るだけね?
彼女は最後に再三の念押しをしてから、先程蘭に伝えていた奥の一角を見つめ始めた。
必然的に俺から視線が外れたことになる。
彼女が自分を見ていない事を確認して、小さく息を吐く。
(あ、あぶねぇ〜…!!)
まさかうさぎの好き嫌いを問われるとは。
彼女からの不意打ちに素っ頓狂な声を上げず、小学生としての回答を出した俺を褒めて欲しい。
彼女の目線や言葉尻からは少し俺を不思議がる様子も窺えるが、見た目は完全に子どもの俺に対して何かを疑っている訳では無さそうだ。
相変わらず柔らかく微笑みながら接してくれるし。演技かもしれないけど。
(まあ、まさか中身が高校生だとは思ってもいないだろうよ…)
そして、問題はこのうさぎのぬいぐるみ。
実際手に取ってみても何の変哲もない何処にでも売っていそうなぬいぐるみだ。
逆を言えばこのデパートの売り物ではない可能性もあるが、それはこのぬいぐるみが入っていたあの白い不織布の袋がこのデパートが対応している梱包の資材かどうかを確認すれば明らかになるだろう。後で灰原に調べてもらおう。
それはそうと変な機械音はしないし、何かが詰められているような重さでもない。
それでも彼女が「見るだけ」と強調して、あまり触る事を良しとしないってことは…。
(爆弾以外の何かが、ここに入っている……?)
彼女にバレない様にぬいぐるみの中を軽く押してみようとした時。
ーキーーーーーーーーーーーィイイイン!
「!!!」
「な、なに?」
「うるさっ!何なの!?」
突然、異様に甲高い機械音が倉庫内に響いた。
鋭く一直線上に伸びる様な高音。
そして親世代の女性にはどうやら聞こえていないらしく、突然辺りをキョロキョロし始めた蘭達を見て驚いている。
(ってことは、これはモスキート音か!)
でもどこから出てるんだ?何故このタイミングで?
発生源を探そうとしたが、突然倉庫内に響いていたモスキート音がピタリと止まってしまった。
「…止まった?」
「そう…みたい。でも何で急に?」
「そもそも何の音かしら…」
「分からないけど……あ、さっきのお姉さんなら…!」
さっきのお姉さんとは、靴紐の彼女のことだろう。
ここまで現状について自分達に説明してくれた彼女なら、この音の正体も分かっているのでは、と考えたようだ。
俺達と彼女はまだ出会って1時間も経っていないが…蘭の奴、余程彼女を信用してるみてーだな。
そしてこの状況が理解できない蘭達が彼女に声を掛けようとして、彼女の方を見てみるとーーー
「ごめん、今は黙って聞いて」
(…え?)
「…わかってる。あとでちゃんと説明するから、お願い、今はこっちの話を聞いて。とにかく大変なの」
その手には犯人によって最初に回収された筈のスマホが握られていて。
彼女は、誰かに電話をしていた。