11拾壱



「目暮警部、状況は?」
「おお、松田君!到着していたのか…!」


白鳥と話し合っていた目暮へ松田が声を掛ける。
松田の姿を確認した目暮はどこかホッとした様子だ。

それもその筈。先程佐藤が話していた通り、松田は集合時間になっても姿を見せずにその行方をくらましていたのだから。
今回は現在進行形で起こっている事件だったため、松田を探す時間も待つ時間も惜しかった。
一刻も早く到着せねばならないこの状況で、よもや職務をサボることはないだろうと仕方なく松田以外のメンバーで現場に駆け付けたのだが、どうやら彼も自身の車で此処まで来たようだ。


「集合の時は居なかったようだがどうかしたかね?」
「あー…スンマセン。ちょっと野暮用があって」


捜査一課強行犯三係の長でもある目暮に対しても松田は特に態度を改めることはしない。
上司の目暮に限った話では無いが、彼の性格的な問題ではあるものの彼にとっては悪意も悪気も無いのだ。
実際松田からしてみたら一課の同僚との集合よりも、これから現場に爆弾解体に向かう同期の萩原へ喝を入れに行く事の方が重要であったからそうしたまで。一課に対して負の感情があって態と集合時間と場所を無視した訳では無い。
その結果、松田自身も萩原と同じことを案じながら此処に到着する羽目になるのだが。


「あんま勝手な事はせんでくれ。君は結果を出すから上も多めに見とるが…」


手先も器用で頭の回転も速いが少々乱暴な節があり、上司に対して口が悪く態度も大きい。
それでも松田は最終的に結果を必ず出す優秀な刑事であった。
だから目暮だけではなく、その上の課長からも特にこれといったお咎めが無いのだ。
「ハイハイ」という松田の了承を聞いたところで、目暮の心労が無くなることはない。適当すぎる其れが微塵も気持ちが篭っていない返事であると理解しているからだ。




(…?)


ふと松田は目暮の隣ー白鳥が自分をじっ…と見ている事に気付き、眉を顰めた。



「おい」



声を掛けられ、顰めっ面の双眸と視線が交差した白鳥はわざとらしくすっとぼけたような顔をしている。


「…私ですか?」
「たりめーだろ。黙ってジロジロ見やがって。何か言いたい事でもあんのか」
「いいえ?何もないですよ」
「……そうかよ」


確かに白鳥はただ静観するのみで、特に口を挟むことはなかった。
というよりも白鳥は松田には何を言っても無駄である事を早々に理解しているので、あくまで口にしないだけなのだが、それを松田が知る由もない。

そんな松田と白鳥の間に流れる冷戦に発展しかねないピリッとし始めた雰囲気に呆れて小さく溜め息を吐く目暮が「そうだ、」と呟きながら何かを思い出す。


「警部、どうされました?」
「いや…大したことではないんだがね。伊達君はどうした?」
「伊達さん…ですか?」


目暮と白鳥の言葉に松田は最近よく行動を共にしている男の直近の動きを思い出す。



(班長ねェ…)


伊達航。松田と萩原の警察学校時代の同期だ。

余談ではあるが、元々松田は萩原と同じく警備部機動隊爆発物処理班に所属していた。
だが、訳あって突然刑事部への異動を強く希望し始めた。
そして更に訳あって、松田自身の希望とは異なる捜査一課強行犯三係へ配属されてきた。
何故希望通りに転属されなかったかというと、これもまた松田の傍若無人な性格が原因だった。
上との折り合いが付かず揉めてしまったのだ。
松田としてはかなり不服ではあるが、こればかりはどうしようもない。異議を申し立てる間もなくあれよあれよと最終的な転属が決められてしまった。

その"不本意な転属"から程なくして、所轄の交番勤務から本庁勤務へ昇進した刑事が伊達だ。

確か彼は30分程前に緊急応援で杯戸町方面に呼ばれていた筈だ。
そっちの案件については無事解決したという旨を白鳥伝いに警視庁を出る前に聞いている。


「ああ。彼も集合の時に居なかっただろう。まだ戻っていないのか?」
「いえ、伊達さんならもうすぐこちらに到着すると先程連絡がありました」
「おお!そうか…!」
「ただ杯戸町からの連絡でしたので、もうすぐと言っても恐らく10分以上は掛かるかと」
「う、うむ…このままだと伊達君は作戦には間に合わないかもしれんな」
「ええ。伊達さんが合流出来たらより安全に臨めますが…」


どうやら杯戸町からこちらに直接向かってくるらしい。
もうすぐ此処に到着するとはいえ、早く見積もっても10分は掛かるだろう。

現場における統率力と機動力に定評がある伊達の存在があれば尚心強いことは松田も自身の経験則から良く理解している。

だが、悠々と仲間の到着を待っている猶予は無い。


事態は客観的にも個人的にも、一刻を争っている。





「無いものを強請っても仕方ねえだろ」
「松田君、」
「どのみち班長を待ってる時間はないでしょう」



たとえ信頼できる同期を差し置いてでも。



「それで?救出作戦はどうなってるんです?」



松田には早急に現場に乗り込み、はっきりとさせておきたい事があった。







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