Side J.Matsuda
目暮警部に今回の作戦についての詳細を聞いている最中、相変わらず軽装のままのアイツー萩が場を弁えないデッケェ声で俺を呼んできた。
顔を見なくても分かる。そもそも同年代の野郎に対してあんな巫山戯た呼び方をする人間は俺の周りにはアイツしか居ない。
五月蝿え、と言葉にした後に再度同じ意味を込めてジロッと鋭めに睨んでみるが、長年の付き合いで俺の性格を熟知している萩には生憎何の効果も無かった。
女ウケの良い面をニコニコさせたまま「あ、そう?ごめんねぇ」なんて微塵も思ってない軽さの適当な謝罪が返ってきたくらいだ。
そうこうしてるうちに当の本人は「ちょっと松田借りまーす!」と目暮警部に言いながら俺の肩に手を回し、警部どころか俺の返答すらも待たずに問答無用でグイグイと俺の背中を押して半ば強制的にパトカーから離れるように歩き出した。
早すぎんだよ行動が。
あ?これあとでまた何か言われるヤツか?…まあどっちでもいいけどよ。
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「あのさ、」
目暮警部達から少し距離が離れたところで、萩は徐に小声で話し始めた。
近くに俺ら以外の誰も居ねえってのに小声で話してくるあたり、この会話は他の連中には余程聞かれたくない内容ってことか。
そのつもりで多少の緊張感を持ちながら萩からの言葉を待っていた…
のだが、
「俺等もうすぐ爆弾解体しに突入するんだけど、」
「ハァ!?」
意図を理解していた筈なのに予想外過ぎる予定を聞かされ、思わずフッツーのボリュームで声を上げ驚いてしまった。
「何言ってんだッ!!未だ犯人確保してねえだろーが!」
「ちょっバカ!!陣平ちゃん声大きい!シッ!」
自分の失態に気付き、慌てて後ろを振り返り佐藤達の様子を窺う。
佐藤達と目が合うことはなかった。運良く耳に入らなかったらしい。あっぶねェー…。
どうやら佐藤達はそっちで何か話し合っているらしく、同期である事が周知されている俺達の会話を一々気にしている様子はない。
「…悪ィ」
「、ふぅ……」
一安心したところで隣に居る萩に短く謝罪する。
萩も俺と同じく少し焦った様子で佐藤達を気にしていたようだ。
「頼むぜ〜陣平ちゃん…。お前んとこのお仲間サン達には聞かれたくないから、わざわざ場所を変えたってのに」
「ンなこたぁ分かってる。悪かったって。…で?さっきの突入ってのはどういうことだ?」
「どういうことだも何も、それはコッチの台詞だっての…」
萩はそう言い、ハァ…と溜め息を吐いた。
つか、それ今日何回目の溜め息だ?
いよいよ「今日ツイてねえな」で流せるレベルじゃ無くなってきてるじゃねえか。
「で?何も策がねぇのに現場に突っ込む訳ねぇよな?何かあんだろ」
「さっすが〜。相変わらず鋭いねぇ、刑事さん?」
「茶化してンじゃねぇーよ。いいからさっさと話せ」
暗に隠してる事を全部吐けという俺の言葉を易々と萩は汲み取る。…が、
「なんでも制圧部隊様には絶対犯人を確保出来る根拠があるんだと…。ああ、でもその根拠自体は詳しく聞かされてねえから、俺も知らないよ?」
突入する小隊長もその核となる策を知らないと来た。
全容を伝えずに突入だと?そんな巫山戯たこと、あってたまるか。
そもそも制圧部隊と同時に裏から爆弾捜索なんて有り得ねえ。
犯人にでも見つかったら確実に銃撃戦になる。どう考えても危険だ。
今からでも遅くない。機動隊の隊長に怒鳴り込みに行くか…と考えていた俺を他所に、萩が「それでな?」と口を開いた。
「静ちゃんから何か返事きた?来てないよな?」
「分かってて聞くんじゃねェよ」
「ツンケンしちゃって。あんまりにも連絡付かないから陣平ちゃんだってめちゃくちゃ心配してるくせに〜」
「………チッ」
このこの〜!と、そこそこの力で俺の肩をど突く萩に軽く舌打ちをする。
こうやって舌打ちをするだけで何も言い返さないのは萩の言う事が図星だから。
そしてコイツは、それが俺なりの肯定の印であることを知っている。
「…ま、とにかく!」
「まだ何かあんのか」
「俺はこれから防護服着替えて解体だからさ、悪いんだけど時々静ちゃんに連絡してみてくんない?」
いや、俺も今仕事してんだけどな?
そんないつものノリで返す言葉は横目で確認した萩の真剣な表情によって発することなく唾と共に飲み込んだ。
(そんなマジなツラしてんじゃねぇーよ…)
待ち合わせ場所が米花町。
休みの日且つこれから会う予定の奴からだってのに、全く繋がらない電話。
いつも下らない事の応酬で未読ログのスクロールが止まらないトークアプリで「今何処にいる?」の一文に対して何の返事もこないどころか既読すら付かない。
80%程の確率で、静が此処に居る。
恐らく萩はそれ以上にかなり高い可能性として考えている。
本当は自分で静の無事を確かめたいだろうに、わざわざ人目を気にして俺に頼むくらいだ。どうしても気掛かりなんだろう。
「ンなモン、テメェに言われなくてもするっての」
断る理由はねぇ。それに、
「早く行け。さっさとバラして来い」
気掛かりなのは、俺も同じだ。