「ヒッ…!」
「オイてめえ!さっさと歩け!」
「は、はいっ…!」
「おい、上はどうだ?」
「今連絡があった。上々だとよ」
「フン…ならいい。手筈通りサツに連絡しておけ」
「了解」
「……………」
俺達を脅すために天井へ放たれたマシンガンの弾。
突然響いた鼓膜を裂くような轟音に俺も含めその場にいた客は何も出来ずに犯人達に捕まってしまった。
他の客の手前、俺は言う事を聞くフリをしつつ周囲を観察して情報を集める。
もちろんこのままただ黙ってこいつらの思い通りにさせる訳にはいかない。見過ごすなんて真っ平ごめんだ。
(とはいえ、動く前にまずは現状を把握しねえとな…)
犯人は3人。
マシンガンを持つ男。
拳銃を持つ男。
その2人に指示を出しているリーダーらしき男。
(…つっても、このフロア"には"だけどな)
俺達が居たのは女性向けの化粧品や雑貨、洋服などを販売している3階。所謂レディースフロアと呼ばれる階だ。
限定的な販売フロアのせいもあって、同じくして捕まってしまった客は老若問わず女性かその女性と一緒に来たであろう子どもしかいない。
つまり男児は居ても、男性は居ないということ。
そしてこれはきっと偶然じゃない。
犯人はそれを理解した上で、このフロアの客を人質に取っている。
自分達に抵抗する力を持っていない可能性がより高い、女性と子どもだけを最初から人質にするつもりだったんだ。
人質を初めから選んでいる、明らかに計画的な犯行。
それならばこれはただの人質立て篭もり事件じゃない…!
犯人の狙い通りというべきか、周りの客は自分が殺されるかもしれないという恐怖に怯えている目をした人ばかりだ。
いくら犯罪が多発してるこの町とはいえ、そりゃいきなり本物の拳銃やマシンガンを目にしたら無理もねえ。
俺には博士の発明品があるし、蘭もいざとなれば動けるだろうが……、
(いや、駄目だ……リスクが高すぎる!)
俺と蘭の機動力を加味してもこっちの分が悪い。
犯人に捕まった人質は俺達3人を含めて13人。お年寄りこそ居ないが……子ども3人、高校生3人、10代〜20代前半2人、20代後半〜30代3人、40代〜50代2人、ってところか。
そして不利なのは人質側の要素だけじゃない。
「! おいお前、キョロキョロしてんじゃねえ!」
「す、すみません…!」
今回の事件の犯人…いや、今此処に居るこの犯人達。
恐らく初めての経験なのだろう。戸惑いゆえの落ち着かなさか、1人の女性が周りを少し見回しているだけでこの有様だ。
この程度の行動でここまで過剰に反応すると、人質の焦燥を必要以上に加速させる。自我を失う可能性もあるのだから、返って不都合だ。なのにそれを隠そうともしないし、相当ピリついている。
ということは手慣れている訳ではないのか…?
手慣れていない場合、少しでも自分の思い通りに事が運ばなくなると計画外の行動をしかねない。ちょっと刺激するだけで何をするか分からない。
つまり、俺と蘭の持ち得る力に対して守る対象が多すぎる。
たった2人で犯人に反抗しながら11人を犯人から守るなんて、到底できるような状況じゃない…!
それならば、
(大人しくするしかねぇか…)
今は黙って犯人の指示に従うしかない。
今は、まだ。
・
・
・
武器を突きつけられた俺達は悲鳴を上げる間も無く、スマホなどの携帯機器を抜かりなく没収された。
その対象には俺のような子どもも含まれているようで、「持ってません」と答えるとポケットなどを叩いてチェックするほどの念入りっぷりだ。俺は少し怯えた顔をしつつ、江戸川コナンのスマホを差し出した。
勿論、工藤新一のスマホも持っているが、今此処には蘭がいる。蘭の前で出す訳にはいかない。
おかげで今俺の手元に外部と連絡を取れる手段は探偵バッジしかない。これで灰原とコンタクトが取れるとスムーズに事が進むが…。
そして口にガムテープを雑に貼られ、更に安っぽい結束バンドで両手を後ろに拘束された状態でフロアの奥へと連行されていた。
「おい、止まるな。指示があるまでは歩き続けろ」
「逆らった奴から殺してやるからなァ!」
恐怖で足が竦んで歩みが遅い人も居るが、どうやら情けは一切無いらしい。
そう脅されながら見えてくる先の行き止まりの扉には黄色の背景に『staff only』という赤文字。従業員しか入れないスペースだ。
普段なら立ち入らないそこに、銃を突き付けられた先頭の女性は戸惑いながらも歩みを進めていく。
バックヤードの地図が壁に貼ってあったのでチラリと横目にしたが、どうやら店舗の在庫を保管する部屋やスタッフルームがありそうだ。もしかしたら…とも思い浮かんだが、残念ながら人の気配はない。
そもそも、これは突発的犯行ではなく計画的犯行だ。
今俺達が歩いているのは犯人が最初から計画していた、人質を何処かへ監禁しておくための移動経路。
当然、その途中にどんな部屋があって誰が出入りしているかは調べてあるだろう。
助けを呼ばれないよう、奥に居る従業員は俺達よりも先に捕まえている…或いは追い出していると考えるのが妥当だ。
今から連れて行かれる部屋に既に監禁されているかもしれないが、ほぼその可能性は無いだろう。
同じ部屋に居ない場合、その従業員には俺達"客"とは別の役目があるということになる。
いや逆か?
俺達が"別の役目"なのか?
そうなると、俺達はーーー