3参


「俺達が来るまで此処で大人しくしてろ!誰か1人でも妙なことしやがったら全員ブッ殺すからな!」


犯人がそう声を荒げたのが約5分程前。
俺達を奥の備品倉庫に閉じ込めた後、犯人は揃いに揃って全員倉庫から出て行った。そう…3人全員だ。

そして早速、俺は違和感を感じる。


(全員出て行った…何故だ?)


扉の前にも人の気配はない。どうやら3人揃ってこの場を離れたようだ。
何故全員が此処を離れたのか、その意図は分からないがそれならそれでコッチは自由に動ける。


(今のうちにこの状況を何とかしねえと…!)


推測通り、俺達以外の人間は居ない。
俺達は犯人に中へ乱暴に押し入れられ、今は倉庫の真ん中辺りに固まって座らされている。

啜り泣く人、突然の事態に理解が追い付かず呆けている人、はたまた絶望しきって何かを諦めてしまっている顔をする人。人質の年代は違えど三者三様の状況だ。
自分が殺されるかもしれないと自暴自棄になりそうな人は居なさそうだが、だからといってこのままじっと来るかも分からない助けを待っている訳にはいかねえ。
倉庫内に照明はないが窓から太陽の光が入ってきているので、目の前が決して真っ暗ではないというのが不幸中の幸いというべきか。


(この部屋に何かあればいいんだが…)


結束バンドで両手を後ろに拘束され、ガムテープで塞がれた口からでは声も出せないこの状況じゃ…






ーツン、




「、!!」



不意に何かに触れられた感覚にハッと意識が戻る。


(足?、いや…俺の靴を触ってる…?)


何だ…?
一般人なら拳銃を突きつけられて監禁されて、茫然としていてもおかしくない状況なのに。
現にその状態の人がいる中、所謂現場慣れをしてしまった俺よりも先に行動に移す人が居るなんて。


視線を上げると、俺の目の前に座っている女性が拘束されたままの左手の人差し指で俺の靴をつんつんと突いているのが見えた。




「ーーーー、」

「………!」




ふと目が合った時、こく、と一つ小さく頷かれた。

彼女の目は全く諦めていない。


彼女の目に宿っているのは強い意志だ。
現状を何とかしようとする、正義に満ちた強い眼差し。




だが、これは好都合だ。

子どもの俺以外にも前向きに動こうとしている人間、しかも大人がいる。


それだけでこの状況をどうにか出来る可能性が格段に上がる…!






「ンーー、ン!」

「ム、?」



彼女はしきりに俺の靴を指差している。

俺の靴を使って何かしようとしてるのか?

だがどうするつもりだ…?


ひとまず彼女の手が俺の靴に届くように、俺は足を伸ばした。

すると彼女は自分の手が俺の靴に届いた途端、俺の靴紐を解き始めたのだ。


(ーそうか!靴紐!)


俺は彼女のやりたい事が分かり、彼女が靴紐を解き終わったのを見てすぐに彼女に背を向けて拘束されている手を差し出す。

彼女は後ろ手に俺の手を縛る拘束バンドに靴紐を通し、上下に動かし始めた。



やっぱり…!靴紐が擦れる摩擦熱で結束バンドを千切るつもりなんだ!



何でこんな打開策が思い浮かんだのか?

そもそも何故こうも落ち着いていられるのか?

疑問視すべき点は多々ある筈なのに、こうもあっさりと拘束が解けたことに対して感動してしまったのだ。探偵としては情けない反面、謎が解けたような感覚で気分が高揚していた。
その昂る気持ちでいっぱいになっている俺は興奮と感動のあまり、反射的に彼女を見るようにパッと顔を後ろに向ける。すると靴紐を上下に動かす彼女とすぐ目が合った。

自分でも分かるくらい目を輝かせているであろう子どもの俺に対して、彼女はニコ、と目を細めて微笑んだ。



(ーー!)


その笑顔に不覚にもドキッと、した。

いや、それ以前に…。



(オイオイ、何で笑ってんだ……)


もしかしたら殺されるかもしれねえってのに、随分と肝が据わってる人だ。


ーキュッキュッ…キュッ、ブチッ!



彼女のおかげで俺の両手を縛っていた結束バンドが千切れた。両手が自由になった俺は直ぐに自分の口を塞ぐガムテープを剥がす。



「っは…!」

(クッソ、地味に痛えな!適当に貼りやがって!)


待ち望んだ窮屈さからの解放に反射的に息を大きく吸う。

周りの人達は突然拘束が解けた俺に驚いて目を大きく開いている。何でこの子は拘束を解いてるんだ?と言わんばかりの視線だ。
今すぐみんなの拘束を解きたいのは山々だが、とりあえず先に千切ってくれた彼女の口のガムテープをゆっくり剥がした。


ーペリッ


「っぷは…、ありがとう、ボク」
「うん!他の人も順番に解くから待ってて!」


オイオイ、綺麗な顔に加えて声も綺麗なのかよ…。
神様与えすぎだろと内心愚痴りながらも彼女の結束バンドを手で外すと、彼女は俺に対してまたニコリと微笑んだ。

今すぐ「おねえさん凄いね!」と子どもらしい歓声の一つでも上げたいところだが、生憎今の俺達にそんな時間は無い。
両手が自由になった彼女と一緒に他の人達のガムテープと結束バンドを外していく。



ーブチッ ブチンッ、

ーペリペリ…



1人の拘束を解いて、自由になった人がまた1人解く。

一人一人が繰り返していけば、13人全員の拘束を解くのにもそれほど時間は掛からなかった。








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