4肆


「どう?蘭」
「ううん…テープとかペンとか、文房具しかないみたい」

「園子ねえちゃん、そこの箱は?」
「これ?これにはタオルが山盛りよ」

「コナンくん、危ないから見るのは下の段だけね」
「うん!わかってるよ!」



全員の拘束を解いた後、俺と蘭と園子は周りの備品の探索を始めた。



「……………」


(……?)


が、さっきの靴紐の彼女は何故か扉を凝視している。
パッと見た感じでは扉に何か仕掛けがある訳でもなさそうだが…。



ちなみに他の人達は基本その場で座っているが、中にはじっとしていられないのか俺達のように探索を手伝ってくれる人もいる。

備品倉庫つっても、デパートならではの丁寧な管理のせいか、棚に陳列されているほとんどが布に覆われていたり大きい袋か透明なケースに入っている。
つまり一見すると中に何が入っているかが分からない。それをいちいち捲ったり、蓋を開けないしなきゃいけねえっつーのがな…。ちょっと手間ではあるが、やるっきゃねえか…。




「ねえ…」



そんな中、1人の若い女性が震えながら声を掛けてきた。



「こ、こんなことして大丈夫なの…?」
「え?」
「だっ、だって!私達コレッ!解いちゃったし…」
「そうだよ…!もし犯人が戻ってきたら!」



女性は既にゴミと化した千切れている結束バンドを持ちながらそう言った。その表情はひどく怯えていた。
何人かはどうやら同じ心境らしく、その表情から察するに不安で仕方ないようだ。

そうか、この人達は拘束を解いたことによって犯人からの反感を買うことを恐れているのか…。







だが、心配する必要はない。






何故ならーーーー














「戻ってきませんよ」




「えっ」「!」





俺はシンプルに驚いていた。

まさに今、言おうとしていた事を先ほどの靴紐の彼女が言ったからだ。


「あの、戻ってこないってどういう…?」

最初に声を上げた若い女性がそのまま靴紐の彼女へ問う。


「そのままの意味です。あの人達はもう此処には戻ってきません」
「でっでも!私達人質なんですよね?ならどうして…」
「理由は幾つかありますが…。まず、人質として私達を利用するにはこの倉庫はデメリットが多すぎます」
「デメリット?」


不思議に思ったのか蘭や園子も会話に入ってくる。
いや、恐らくこの場に居る全員が聞き入っている。

だがそんな事は気にせず、彼女は相変わらず扉を凝視したまま淡々と話し続けた。


「警察から身代金を要求するための人質にするなら、こんな奥に入れておく必要はありません」
「必要がない?」
「ええ、連れ出すのに一々時間が掛かりますから」
「確かに…」
「そもそも。犯人のあの気性の荒い性格からして、人質は警察やマスコミへの見せしめとして用意しているんでしょう。それなら生かすにしても殺すにしても、外から見える場所に集める筈です」


その通り。
まさに彼女の言った事は此処に閉じ込められた時からずっと疑問に思っていたことだった。


身代金を要求するための人質ならこんな奥に隠しておくより、一面ガラス張りになっている中央広場に集めればいいだけ。
彼女はさり気なく言っていたが、冗談ではないという牽制のために誰か1人を本当に殺すつもりだとしても、それは外部へ見せつけなければ意味がない。

警察の目の前で殺して動揺させ、焦らせて、思考させない。

警察に時間的猶予を与えないための見せしめだ。




「それだけではありません」


そして、犯人の一連の行動にはまだ疑問視すべきところがある。



「人質を監視するつもりなら、本来居るはずのモノが此処には居ません」
「居るはずの…モノ…?」
「ええ。ドラマやアニメの類でも当然のように居ますよ、ソレは」
「うーん…?」


余程心当たりが無いのか、誰も正解を言わない雰囲気に彼女は困ったように眉を下げた。
だが気が付けばそこには会話の始めのような動揺しきったマイナスの空気感は既に無く、皆が突然彼女から投げ掛けられた問題にただただ答えを見出そうと思考していた。
何だこの突発的なクイズ大会は…。いや、そもそも暢気にクイズ大会してる場合でもねえけどな?


「ではヒント。何故私達は今こうして手の拘束を解き、歩き回れているのでしょう?」
「何故って…お姉さんとコナンくんが皆のバンドを取ってくれたから?」
「ですから、"それが実行できた"のは何故でしょう、という事です」

「あ!」


彼女のヒントを聞いて、若い女性が短く声を上げた。
制服ではなくカジュアルな私服。声に合わせて無意識のうちに手も挙がっている仕草を見ると、午前中で終わった講義の癖が抜けない大学生だろうか。


「お、分かりましたか?そこのお嬢さん」


彼女は扉を凝視したまま少し顔をこちらに向けて、声を上げた大学生に答えるよう促す。

つか、「お嬢さん」って…。
自分と同世代の同性に対して今時随分と珍しい呼び方をする人だな。




「えっと……

見張り、ですか?」





女性の回答に俺も思わず口角が上がる。


そう、本来居るべきもの…

俺達の行動を監視する者ー見張り役が、ここには居ない。









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