『レイス領地礼拝堂に行きたい』
いま、礼拝堂周辺は巨人が這い出た大きな穴がそのままになっており、危険性が高いということで、出入りが管理されていた。
だが、ナマエのわがままに、エルヴィンはリヴァイの護衛付きという条件で、ヒストリアやザックレー総統に掛け合ってくれた。礼拝堂地下最奥まで行ったのは、ヒストリアと104期の調査兵、そしてリヴァイしかいない。状況がわかって、そして足の悪いナマエに何かあったときに対応できる人間ということで、リヴァイを選んだらしい。
ついでにリヴァイに休養をさせる意図も、エルヴィンにはあったようだ。
「で、なんで礼拝堂なんかに行きてえんだ。お前いま、クソ忙しいだろうが」
「うん、まあ」
馬車の向かいに座るリヴァイが、じとっとこちらを見つめる。ナマエの目の下には、隈がくっきりできていた。シガンシナ区奪還に向けて新しい武器を開発するために、ほぼ連日徹夜で作業しているからである。
『シガンシナ区奪還のためには、鎧の巨人に対抗できる武器が必要だ』
あのあと、ハンジからの依頼がナマエには与えられた。彼女の口から出た依頼は、予想通りのものではあった。
シガンシナ区の内門を破壊したと言われる、鎧の巨人。巨人に勝つにはその鎧の巨人がキーのひとつになるだろう、とは思っていた。
中央憲兵の資料室を出て、ナマエはすぐに早馬を出した。今の研究よりも、資料室の武器の仕組みを解いてより威力を出せる武器を作るほうが優先度が高いと判断し、テレンとタノを呼ぶことにしたのだ。
すぐに来てくれた2人とともに中央憲兵の根城の空き部屋に作った研究室に籠って、資料庫と行き来しつつ貯蔵兵器の解明をしていく傍ら、地下牢に捕縛されている元中央憲兵配下の技術班にも接触し、協力を仰いだ。手も頭も足りていなかった。
彼らには彼らなりに、壁内の人類が幸せに生きるためにそうしたのだということは、報告書を読んで、直接話も聞いて、全く納得はできなかったが理解はした。だとしても、協力はしてもらう必要があった。彼らの知識は貴重だ。彼らは骨の髄まで技術を秘匿することを是と認識する者が多く、会話を通して懐柔していく必要があった。
世間のシガンシナ区、そしてウォール・マリア奪還の声は、高まっている。武器の開発は急がなくてはならない。のだが、ナマエはどうしても気になっていることがあった。
「礼拝堂地下の、壁を見たくて」
「壁?」
「地下なのに、空間全体が明るかったんだよね?上手くいけば、夜の移動の光源として使える。見てみないとわからないけど」
ほう、とリヴァイは腕を組む。
夜間移動の負担が軽減されるのは、シガンシナ区奪還において重要な要素のひとつである。
巨人は夜間、動きが鈍くなると言われている。であれば、シガンシナ区までは夜間に移動すべきなのだが、当然それは人間にとっても負担になる。夜でもできる限り速く、楽に移動できる手段があれば、それだけで戦闘に余力を回せるのだ。
「確かにそれは、お前のその隈が悪化してもいいくらいの価値があるな」
「でしょ」
「だが、とりあえず寝ろ」
リヴァイはマントを脱いで、ぼす、と投げつけてくる。
「うわ」
「着いたら起こす。まだ礼拝堂までは時間がかかる」
「……リヴァイは?ちなみにリヴァイも、人のこと言えないくらいいつも隈酷いけど」
「俺は問題ねえ。お前のクソほど間抜けな寝顔でも眺めている」
「乙女の寝顔は貴重なんだよ」
「今更何を言っている?くだらねえこと気にするな」
そういえば、足の骨を粉々にしたとき既に見られていた、とナマエはすぐに気づく。
「確かに今更だった」
「大人しく寝とけ」
「ねえ、これ、使っていいの?」
投げつけられたマントを畳みながらいつも通り確認すれば、勝手にしろ、と言われた。出会ってはじめの頃は、彼の神経質さ故に物の貸し借りもできなかったが、気づけば普通に貸してくれることも増えた。
今回も、ありがたく借りることにする。
マントを枕にして、馬車の椅子に横になる。研究室で寝るのと同じくらいの固い寝心地ではあったが、連日の疲れのせいか、ナマエはあっという間に意識が飛んだ。
「おい、起きろ」
ゆっくり意識が戻ってくる。
「着いたぞ」
「……うん」
目をこすって、身体を起こす。まだ目はしゅばしゅばするが、寝起きは良いほうだ。立てかけていた松葉杖と、工具箱を手に取る。
先に降りたリヴァイに手を貸してもらって、地面に足をつける。太陽の位置から、昼前ごろだと認識した。
「リ、リヴァイ兵長だ……」
「リヴァイ兵長だって?」
小声が聞こえてくる。礼拝堂を見回りしているらしい駐屯兵の声だ。そんなことは気にせず、リヴァイは、
「責任者は誰だ」
と問う。一人が前に進み出て、心臓に拳を当てる。彼の目には、人類最強に対する、畏れと憧れとがありありと浮かんでいた。
「は、はい、ここの管理を任されている、ヒュース・グレイです」
「ダリス・ザックレーからの手紙と許可証だ。確認を頼む」
「ありがとうございます。……確認しました、どうぞ。なにかありましたら、周囲に駐屯兵がおりますのでお声がけください」
「ああ、助かる」
リヴァイに着いて、歩いていく。
横を見れば地面が大きく抉れていて、件の巨人が通った後だとわかった。
少し歩くと、ぼんやりと光っているのが見える。
「……ここだ」
地面は地下空間まですっかり抜けていたが、壁という壁が青白く光っているのが太陽の元でも明確にわかった。
――すごい、場所。
あまりにも、美しかった。それなのに、ところどころに、赤、赤、赤。ここが戦いの現場だったことを明確に思い起こさせる。
「……」
「降りるか」
「うん」
リヴァイは立体機動装置を慣れた手つきで身に着ける。
「行くぞ」
「お願いします」
「暴れたら手を離すからな」
「え」
腰に片手が周って軽く持ち上げられた。そのまましゅばっ、と飛び上がる。
――久しぶりの、感覚。
足が悪くても立体機動装置を使えないか、といろいろ試してはいるが、まだ成功には至っていない。久しぶりの立体機動だ。
「……ッ」
なぜかわからないが、胸が苦しい。
訓練兵の頃、運動神経の悪いナマエは、立体機動がやっぱりどうしても下手くそだった。だから、立体機動装置を改造した。ブラックボックスを開けて、アンカー射出部分の可動域とハンマースイッチを調整し、レバーの仕組みを変えて、手元の操作で自分の運動神経をカバーできるようにしたのだ。
あのとき。自分のイメージした通りに動けたとき。まるでどこへでも行くことができるような、そんな気持ちになったことを、ナマエは忘れていない。
ゆっくりと、青白く光る地面に降ろされる。それから、彼がぎょっとしたのがわかった。
「どうした」
「え……?」
顔に手をやれば、なぜか頬が濡れていた。
「あれ、……なんでだろう」
「ガキみてえだな」
「うるさい。子どもじゃないから」
松葉杖をつき、誤魔化すようにリヴァイから離れる。
きっと、この禍々しくも美しい景色に少し感傷的になってしまっただけだ。
「ありがとう」
「……ああ」
――さて。
ナマエは少し息を吸う。
気持ちの問題かもしれないが、なぜか空気が綺麗に感じられる。頭上を見上げれば、空も少し遠くなったように思う。
ゆっくりと松葉杖を動かす。すでに遺体は回収されているらしく、血の跡が残るだけであった。
光の柱は太陽の光に反射して光っているのではなく、柱そのものが光っているのがわかる。一体、どんな原理で光っているのか、全くわからない。
柱に触れる。冷たそうに見えるが、特にそんなことはない。透過率は高そうだが、柱がねじれていて太いせいで向こう側は見えず、青く見える。
少し周りを見渡して、自分の背丈くらいまで崩壊している柱の近くへ移動する。松葉杖を立てかけて、ゆっくりと地面に座る。
柱に触れて、どこか割りやすそうなところがないか探す。わずかにひび割れを見つけ、工具箱から掘削用の道具を取り出す。いくつかの道具を試して、どうにか手のひらサイズの破片が削り取れた。かなり割れにくい素材らしい。地下空間を支えていただけある。
「……よし」
同じサイズの黒金竹よりも少し軽いくらいだ。柱から削っても、その破片は光ったまま。
太陽にかざせば、まぶしい。このサイズになると、向こう側の影がうっすら見えた。
リヴァイが、横にしゃがむ。
「見て、綺麗」
破片を手渡す。リヴァイもそれを持ってじっと見つめる。
「すごいな」
「ね、こんな鉱石があるなんて。光る原理が全然想像できない。半永久的に光るのかなあ……」
最後はもう独り言になった。
だが、来る前の予想が当たったようで、むしろ期待以上の成果だ。ランタンのように加工したら、夜間でも使えそうだ。
リヴァイが鉱石をこちらに返す。ナマエはそれを受け取って、もう一度見つめ、地面に置く。
「これから、この鉱石をもう少し集めるね」
工具入れから袋を取り出しながら話す。
「てことで、ちょっと時間かかると思うんだけど、待っててくれる?」
「了解だ」
リヴァイはそこに片膝を立てて座る。見ているつもりらしい。
ナマエは掘削用の道具をもう一度握りなおした。
「よし」
袋がいっぱいになったことを確認して、ぐっと伸びをする。高い空を見上げれば、太陽の位置は既にかなり東にあった。あれ、と思って少し視線を動かせば、すぐ横の柱にもたれかかって目を閉じたリヴァイがいた。
――この人、寝るんだ。
人間だから当然なのだが、ちょっとナマエは驚いた。掘削の音がうるさいのによく眠れたものだと思う。
そしてそこから、彼が疲れているのかもしれない、と想像するまでに、なぜかさらに時間がかかった。
そう、あのとき――トロスト区防衛戦のあと、ナマエが骨折したのを見舞いに来てくれた時だ。2人で話すのは、それ以来のことになる。
思い返せば、彼はずっと忙しそうだった。調査兵団の報告書には定期的に目を通しているので状況は概ね把握してはいた。
人類の希望であるエレン・イェーガーという調査兵を守り通すこと。壁の中に潜入した敵の巨人をとらえること。中央憲兵に対抗して国をひっくり返すこと。彼は調査兵団の最高戦力としていつだって負けることは許されない。そりゃあ疲れるか、と思う。
小さく息を吐いて、鉱石を入れた袋の口を閉め、道具をひとつずつ丁寧に仕舞っていく。最後、蓋を締めて、かちゃり、と工具箱を閉じる。ゆっくり片づけたはずが、まだリヴァイは目覚めていなかった。
興味本位で、ちょっと近くに寄って寝顔を眺める。こっちも見られてるんだから、これでおあいこだ。
随分隈が濃くなっている気がする。普段、あまり寝られていないのかもしれなかった。寝ているせいでいつもの怖そうでぴりっとした雰囲気とはちょっと違くて、なんとなくその頭を撫でる。
「……こんなに綺麗な場所で、リヴァイも戦ったんだもんね」
ハンジはここで怪我をした。
そしてエルヴィンはこの3か月で右腕を失って。
入団当初から世話になっていたミケは誰にも見られずに死んで、ナナバは部下を守るために死んで。ミケはどこで死んだかわからないし、ナナバは丸ごと飲み込まれてしまったから、どちらも骨すらない。
ナマエの元部下たち、ディータ、シャノン、ルークは女型の巨人に殺された。何度も一緒に任務をこなしたゴーグルは中央憲兵に殺されて。
どろどろとこの3ヶ月の事が頭に流れてくる。
ナマエは、どれにも立ち会っていない。現場にもいない。ただ報告書で読んで、あるいは誰かから聞いて、その事実を知るだけ。仲間達がいなくなっていくのを、ただ外から見ているだけだ。
――あれ、私、この3ヶ月、大切な仲間をこんなに失っているのに、何もできてな、
「……!」
あまりにも驚いて、声すら出せず、思考が吹っ飛ぶ。
澄んだ瞳と、目が合う。目の前の男が、強くナマエの腕を握ってこちらを睨んでいた。
「……オイ」
「あ、」
「てめぇ、何してやがる」
ナマエは腕を引こうとして、息を飲む。
「……」
「なんとか言え」
「……ねえ、何で泣きそうな顔してるの」
リヴァイの目が見開かれる。それを見て、ナマエはすぐに、まずい、と思う。
謝るより先に、それが口から出てきてしまった。気になってしまったのだ、睨んでいるのに、なんだかいつもと違う彼の様子が。だが、わざわざそれを言うのも良くなかったし、神経質だとわかりきっている人の頭を撫でるなんて思えば相当無神経だったのだから絶対に謝罪が先だ。
「ごめん」
謝れば、リヴァイの手から、力が抜けていく。ナマエは腕を引く。
リヴァイは大きく息を吐くと、ちょっと髪をかきあげて目線を落とす。
「ああ、クソ。最悪だ」
「ごめん、嫌な思いさせた」
「待て、謝れとは言ってねえ。お前が……悪いと言えば悪いが、根本的にはお前が悪いわけじゃねえ。だから気にするな」
ううん、とナマエは首を横に振る。
「無神経だった」
「いや、違う。嫌とかじゃない。謝るな、むしろ俺が悪かった」
リヴァイの視線が、ナマエの腕にいく。つられてそちらを見る。意外と赤くなっていた。
「腕は、大丈夫」
それから、ふとリヴァイの言葉が引っかかる。
「嫌とかじゃない、って言った?いま」
「あ?俺はそんなこと言ったか?」
「うん、言った。潔癖症なのに、頭触られるの嫌じゃないの?」
「……」
多分嫌だったらやめろと言うだろうが、そう言わないのであれば許容範囲ということ。
ちょっとの沈黙の後、チッ、と舌打ちが返ってくる。ナマエは、え、と少し戸惑ってから、思わず吹き出した。嫌じゃない、とは言いたくない気持ちがありありとその舌打ちに込められていた。
ものすごく睨まれるが、それは予想通りだ。
「ねえ」
「あ?」
「もう1回、撫でたら怒る?」
「当たり前だ。何を、」
ナマエは再度ぴゅっと手を伸ばす。が、ぱしっと掴まれた。
「だめかあ」
「お前の行動はわかりやすい。それでよくいままで奇行種を欺いてこられたな」
「これでも12年は調査兵団で生き残ったんだけど」
「人並みの実力と人並み以上の運があるからな。普通の立体機動装置を使う運動神経は、なさそうだが」
「私の立体機動、普通じゃない動きを時々するせいで、一部の部下に裏で変態機動って呼ばれてたらしいよ。知ってる?」
リヴァイがく、とわずかに口角を上げた。笑った、とナマエは少し安心する。リヴァイの笑顔は割と珍しい。6年も一緒にいるのに、数回しか見たことがない気がする。
さっきまでの泣きそうな顔は、もう消えただろうか。
「聞いたことはある。褒めているんだろうがセンスはねえな」
「そうなんだよね、なんかもうちょっといい言い方ありそうじゃない?まあ確かに、アンカーの刺し方が普通とはだいぶ違うから、変態って言われても仕方ないかもしれないけど」
「刺し方もあるだろうが、それよりスイッチだな。お前の、ハンマースイッチとレバーで自分の動きを変える操作、あれはちょっと、常人じゃねえ」
「常人らしからぬリヴァイに、常人じゃないって言われても」
そう言えば、ふとリヴァイは真面目な顔になって腕を伸ばし、くしゃくしゃ、と逆にナマエの頭を撫でてきた。ナマエはびっくりして目を見開く。
「……ねえ」
「あ?」
「やだ」
「……」
ナマエはリヴァイの腕を掴むが、力が強くて離れてくれない。ナマエの頭に手をのせたまま、目の前の男は話し始める。
「最近分かったんだが、どうやら俺は、本当に常人ではなかったらしい」
「どういうこと?」
「俺は、アッカーマンの血を引いている」
アッカーマン、とナマエは口の中で呟く。アッカーマンについての話は、報告書で読んだ。つまり、
「ケニー・アッカーマンとミカサ・アッカーマンと、血がつながっているの?」
驚いて目線をリヴァイに戻せば彼は頷いて、アッカーマン家の血の特徴や、ケニー・アッカーマンと生活していたこと――あいつはろくでもない奴、と5回は言った――、母親が幼い時に亡くなったこと、ミカサ・アッカーマンは分家の血を引いていることなどを話した。
リヴァイの幼い頃の話を聞いたことは少しもなかったからなんで彼がこんなに強いのかなんて知らなかったが、彼がアッカーマンで、しかも幼いころから同じアッカーマンにいろいろ仕込まれたと聞けば、それも理解できる。
それにしても、ナマエが祖父にものの作り方を教わっている年齢のころに、彼は戦い方を教わっていたのかと思うと、生きていた世界の違いに愕然としてしまう。
「……ケニーさんが生きていれば、リヴァイの小さい頃の話とか聞きたかったなあ」
「俺のガキのころ?」
「だって、育ての親なのかなって」
そう言えば、リヴァイは少し驚いたような顔をして、それから、そうだな、と言った。
「育ての親、か。まああいつが生きてたとしても、まともな回答が得られるとは思えねえが」
小さい頃からこんなふてぶてしい子どもだったのかな、などと失礼な想像をする。
「オイ、なんか変なこと考えてねえだろうな」
「いえ、全然全く。小さいころから毎日こうやって眉間に皺が寄ってたんだろうなと思っただけ」
「お前はガキの頃も、幸せそうな顔して毎日もの作ってたんだろ」
「……私、幸せそうな顔してる?」
そう問えば、リヴァイはふっと苦笑する。
「お前は、壁内にいるときは大抵、馬鹿かと思うくらい幸せそうな顔をしている」
「馬鹿じゃないです」
誤魔化すように再度頭を撫でられて、手が離れていく。
ナマエは気を紛らわすように、空を見上げた。横で、リヴァイもつられて空を見上げたようだ。
地面と光る柱に囲まれたここから見上げる空は、とても美しい。まだ、見えていない空がある。ここから出れば、見られる空がある。
「……地下街から見るみてえな景色だな」
「地下街からも、空が見える?」
「立体機動で行けば、少しだけ見える場所がある。イザベルが見つけた鳥を地上に帰す時に行った」
「そうなんだ。イザベル、動物に優しかったもんね」
リヴァイの兄貴、とリヴァイを呼んでいた彼女を思い出す。あっという間に馬を乗りこなしたイザベル。一緒に訓練したのはたった数か月だったけれど、ナマエは半分お世話係のような立ち位置で、ちょっと気が強くて可愛い妹ができた気持ちだった。彼女は、リヴァイやファーランのことを強くて優しいんだと自慢げに話していた。
「この景色は、嫌い?」
「悪くねえ」
そのままずっと空を見上げていれば、少しずつ、青にオレンジが混じってきた。
――綺麗ー……。
「……それで、ナマエ、やることは終わったのか」
呼ばれて顔を下げる。
「あ、ごめんなさい、終わってます」
「帰りが遅くなる。行くぞ」
リヴァイは立ち上がって、袋を持ち上げる。量は多くはないが、安全策をとったのだろう、先にそれを持っていくらしい。ひゅ、と心地よい音が聞こえて、リヴァイが飛んでいく。
ナマエは柱に手をつき、立ち上がって松葉杖を手に取る。少ししてリヴァイは戻ってきた。彼は地面に置いてある工具箱を手に取って、ナマエに手渡す。
「大丈夫か」
「うん。帰ろう」
来た時と同じように、腰に手が周って持ち上げられる。
「ねえ、思ってたんだけど」
「なんだ」
「身長同じくらいなのに、よく持ち上げてしかも立体機動もできるね」
「あ?」
割と至近距離ですごい圧で睨まれるが、今はこちらのほうが目線が上なので、なんだか笑ってしまった。
「クソが。てめぇ、置いていくからな」
「駄目、置いてかないで」
「チッ、しっかり反省しておけ」
アンカーが飛んで行く。ナマエは、懐かしい感覚を、また存分に味わった。