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歳の近さに驚いていると、校長先生はコホンと小さく咳払いをしてから改めて俺に向き直った。


「風間くん、中学生の勉強はできるのかな?」

「…俺の知識が同じなら…一応大学は出ているので、できるとは思います。あ、社会や歴史は違うかもしれません」

「ならヒーローに関する事は相澤くんから学ぶとして…個性の使い方も相澤くんから学ぼう!」

「丸投げですか」


諸々の手続きは任せてほしいと校長先生に言われ、俺は甘んじてそれを受け入れた。恩を作りすぎてはいないだろうかと不安になる。しかし、ここは彼らに縋る道しか生きていく術はなかった。




校長先生に頭を下げ、俺と相澤さんは帰路に着く。今日から世話になるのは、勿論相澤さんの自宅であり、彼のプライベートスペースに踏み入ることとなる。


少し後ろを歩きながら、夕焼けに照らされる彼を見上げた。何も言わず、何を考えているのか読めない表情を見つめる。

ふと、当たりに意識を集中させてみる。校長室で話している間、数人の気配を感じていたが、今は感じられなかった。

恐らくこれは俺の個性によるもので、空気の振動を感じ取ったのだろう。ずっと見られていたのはわかっていたため、下手に何も言わず、言われた通りに与えられた処遇を受け入れることにした。


俺がこうして何の躊躇もなく受け入れられているのは、俺自身の監視のためだと思う。

雄英高校はプロヒーローが教師をしており、設備も整っている。“敵”の可能性がある人物を、下手に保護施設や警察側に置いておくよりかは、幾分か都合がいいのだろう。他にも、何か目的があるのかもしれないが…

相澤さんの個性は、俺の個性を消すことが出来るため、彼の元に置くことを命じられたに違いない。そうでなければ、合理的主義者である彼が、受け入れるはずがないのだ。



ーーー俺は、空気が読める。



なんとなく察してしまった自身の立ち位置は、とても危うく、俺の振る舞い方次第で崩れてしまう。


ふいに胸のあたりが締め付けられる。なんとも言えない感情に、内心苦笑してしまう。


守形くんのためにも、俺は生きなければならない。その為に、今は縋れるものに縋るしかない。これが甘えだとしても、彼らが唯一の希望なのだ。


もう一度相澤さんを見上げると、丁度こちらと目が合った。
彼を見つめながら、ゆっくりと口を開く。



「…イレイザーヘッド」


「…普段は名前でいい。それはヒーロー名だ」


「……相澤さん、」


「なんだ」


監視されるために、この人と行動を共にする。歪で不安定な関係が、始まろうとしていた。









「お世話になります」



ーーー彼の瞳が、僅かに揺れた気がした。









mokuzi