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その晩、俺は久々に手料理を作った。腕が訛っていないか心配だったが、二人は文句を言わず綺麗に食べ終えてくれた。


「はー……久々に、こう…愛情的なもん感じたぜ…風間くん、イレイザーんとこやめて、俺ん家に来ない?」


「風間」


「あ、はい、お茶ですね」


「何今の!!??夫婦かよ!!!!」


「お前もう黙ってろ」


二人のやり取りをぼんやりと聞き流しながら、賑やかな食事は何時ぶりだろうかと考える。誰かのために料理を作り、家族で食卓を囲む。ひとり暮らしを初めてから、忘れてしまっていた感覚が、徐々に戻ってきているように感じた。


二人の前に茶を置き、二人が口をつけるのを確認してから、自分も温かいお茶を啜る。


「…相澤さん、その……俺が料理を作ってもいいですか…?」


「……許可する」


「っ!あ、ありがとうございます…!あ、朝は弁当も作った方がいいですか…?」


「作りたいなら作っていい」


「え、何それ俺も食いた「却下」っぁあっ、シヴィー!!!」


やっとお世話になっている人のために、何かできるという喜びで自然と顔が綻ぶ。なるべく節約しつつ、美味しいものを食べてもらおう。それが今の俺に出来る最大限の恩返しだと思った。


「勉強と鍛錬、怠るなよ」


「はい、それは勿論。あ、そうだ…昨日やった英語で分からないところが…」


「英語!?ちょちょ、そこは俺の出番だろぉ!?」



話に聞けば、プレゼント・マイク…もとい、山田ひざしさんは英語の教師らしい。プロヒーローが一般教養も担当するらしく、雄英高校は本当に至れり尽くせりなところである。
















ーーー後日。


「ひざしさん、ここは…」


「そこは関係代名詞が、こうなって…」


「………何勝手に人の家に上がり込んでんだ、マイク」


ひざしさん(苗字で呼ぶと拗ねられた)が英語を(半強制的に)教えてくれるということになり、相澤さんの家に入り浸るようになった。


「相澤さん、おかえりなさい」


ひざしさんと言い争う彼に、そっと声をかける。彼はこちらを向くと、「ただいま」と返してくれた。

此処は彼の家であり、俺は居候である。しかし、何故かその何気ないやり取りが、俺には言葉では言い表せない、かけがえのないものに思えたのだった。



「………やっぱ夫婦じゃん…」


その日、ひざしさんの肉じゃがから、肉が消えたのはまた別のお話。








mokuzi