考えるより先に


あの日から相澤さんが学校に持っていく弁当と晩御飯を作るようになった。しかし、元々レパートリーの少ない俺は、料理本を片手に今日の晩御飯を考えるしかなかった。


「…んー…まず、この家には食材以前に調味料がないんだよな…」


冷蔵庫やキッチンをくまなく探すも、そもそも食器類や調理器具少ないこの家に、調味料が揃っているはずもない。塩や砂糖もそろそろ切れてしまう頃で、俺は頭を捻らせた。


「……ぁ、もしもし相澤さん?お仕事中すみません」


『どうした、何かあったか』


「あー…その…食材と調味料、殆どなくて…買い足したいんですけど…俺、外に出てもいいのかな…と」


『………』


仕事中に失礼だと思いながらも、俺は相澤さんに電話をかけた。ちなみにこの電子端末は、相澤さんから無いと色々不便だろうと、好意でもらったものだ。何から何まで面倒をかけているのは分かっているが、食材を買うくらいは自分で行きたい。


『…俺が買って帰ると言いたいところだが、俺に食材選びは向いてない。いいよ、たまには外に出るのも』


「あ、ありがとうございます!」


『但し、端末は持っていけ』


「わかりました。では、失礼します。…お仕事頑張ってくださいね」


『…ん』


短い返事のあと、向こうから電話が切れる。外出の許可を貰うことに成功した俺は、早速出かける準備を始めた。

必要な材料のメモを持って、真っ黒な部屋着から外出用の服に着替える。相澤さんのおさがりであるスウェットは自分には大きかったが、新しいものを買うより節約になるだろうと、自らお願いしたものだ。

ひとりっ子だった俺は、お下がりを貰えることに嬉しさを覚え、上機嫌でひざしさんに報告したことあがる。ひざしさんが「え…彼ジャージ?」と言ったその日、オムそばからオムが消えたことは記憶に新しい。


俺も何かあげたいと、ひざしさんから貰ったキャップを被り外に出る。合鍵できちんと戸締りをしてから、少し傾き始めている太陽を浴びた。




ーーー時刻は夕方。帰宅途中の学生たちとすれ違う。


周りを見渡せば、角や尻尾、翼が生えている人が目に入る。外に出れば、やはりここは自分がいた世界とは違うのだと実感させられた。


「…卵も買い足したし、調味料も揃った…あのスーパー、野菜安かったなぁ…」


久々に外に出たからか、
少し浮かれていたのかもしれない。


気を抜かなければ、
もっと太刀打ちできたのかもしれない。


「カツキッ!!!」

「やべぇって!!逃げろッ!!!」

「ッ、!?」


曲がり角を曲がれば、目の前には得体の知れない液体の化け物と、それに飲み込まれている人。こちらに逃げてくる学ランの二人組が視界に広がった。










mokuzi