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それは、初めての“敵”との遭遇だった。


人間は恐怖で足が竦むか、考えるより先に身体が動くかの二種類に分けられる。


ーーー俺は後者だったらしい。


考えるより先に逃げる二人の前に飛び出す。自分の目の前に空気層を作り、爆破を防ぐ。ヘドロ野郎とヘドロにまみれた彼の驚いた表情が重なる。


「あんた何やって!?逃げねぇとッ!!」

「どっちかヒーロー呼んでッ、」


ヘドロに包まれた“カツキ”と思われる中学生は、必死に抵抗しようと自身の“個性”を連発する。恐らく爆破系の個性なのだろう。彼が使えば使うほど、周囲への被害は増す一方だった。


ヘドロは彼を乗っ取るつもりらしく、彼の個性を理不尽に振り回す。

この先は大通り。このまま彼らが大通りに向かえば、事態は深刻性を増す一方だ。


「はぁッ!?」

「いいから呼べって…ッ!!!」


頭を使わせないでほしい。まだ集中していないと、彼らを守るくらいの大きな層は、衝撃には耐えられないのだ。ぐわんと揺れる空気層に冷や汗をかく。



「わ、わかっ…危ねぇッ…!」

「ぐ、っ!?」


突如、真上からヘドロが降ってきた。咄嗟に空気層を自身だけに張り直す。こいつ迂回しやがった。なかなか頭はキレる敵らしい。

その隙に学生二人は逃げたようで、俺はやっと一人になった。

一般人の個性の使用は禁止されているが、身を守る際の使用、つまり正当防衛は許可されている。

向かってくるヘドロと爆破を空圧で受け流しながら、自分だけに攻撃が向くように仕掛ける。相澤さんとの戦闘訓練のおかげか、動きはしっかりと見えていた。


「お前も、良い“個性”…このガキの攻撃性と、お前の防御性…アイツに勝てる…!」

「その子を解放しろ…!」

「ぐぅううッ!!!」

「チッ、いい加減身を委ねろよぉおお!!」


苦しそうに彼がもがく。苦しいはずなのに、それでも抵抗を見せる彼のタフネスさには、このヘドロも苦戦しているのだろう。


暴れる彼を抑えようと、さらに暴れるヘドロ野郎。かなりの爆破がこちらに向かってきた。俺は、手に持っているスーパーの袋を落としてしまう。


ーーーあ、卵…割れ…


こんな中でそんなことを考えてしまった俺は、一瞬防御の手を緩めてしまった。丁度タイミングよく、ヘドロがこちらへ向かってくる。

咄嗟に、俺は空気圧を纏った拳を出してしまった。防御ではなく、身の危険を感じて咄嗟に出た攻撃。




ヘドロ野郎は頭がキレる。

俺が彼を傷つけないように、攻撃しないのを分かっていたのだろう。ヘドロと思っていたそれは、少年の手だった。











mokuzi