21


ーーー周囲は瓦礫と火に包まれている。


「おおォオオオッ!!!こぉんのォオッ!!」

「ぁ…ぐ…ッ…く、そ…」


彼の“個性”との相性がすこぶる悪い。彼が抵抗して爆破を起こせば、俺が取り込める酸素濃度が減っていく。何かしようにも、何も出来なかった。

流動体の相手にプロヒーロー達は苦戦している。“敵”を掴むすべがなく、人質のせいもあって下手に手が出せない状態だった。


『空気圧を、放てれば…』

「うえ゛っ」


ヘドロ野郎が彼を操り、プロヒーロー達を攻撃していく。野次馬も集まってしまい、彼らはそれどころではなかった。こういう時、怖いもの見たさに集まってくるのは、どこの世界も同じらしい。


有利な“個性”が来るのを待つしかないと、どこからとまなく聞こえてくる。


「あの子達には悪いがもう少し耐えてもらおう!」


そんな流暢なことは言っていられないのだ。俺は既に半分飲み込まれているし、同じように取り込まれているからこそ分かるが、抵抗している彼も意識を保つのにギリギリの状態だ。

あと少しなんて言っていられない。


『せめて…この火を…なんとか…』


ーーー考えろ、考えるんだ。


俺は思考をフル回転させる。

燃焼が継続するには可燃物、酸素、温度の3つの要素が揃う必要がある。極端な話、これらのうちのどれか1つを取り除くと燃焼は停止、すなわち消火できる。

消火の方法は様々だが、空気を操る俺に出来るのは…


「お、おい!火が消えてくぞ!」

「バックドラフト!お前か!?」

「俺じゃない!これは、あの子の“個性”だ!」



ーーー窒息消火法。

酸素の供給を止めたり、周囲の酸素濃度を下げたりして燃焼を止める消火法である。俺は火に向けて手を伸ばし、火の周りの空気をギュッと握り潰すように手を握り締める。


消火は上手くいったようでひと安心するも、ぐるりと首周りのヘドロに力が込められた。


「ぁッ、ぐ…ッ、う゛…ッ…」

「余計なことしてんじゃねぇよぉお!」


首を絞められ、酸素が薄れる。力が抜け、瞬く間に残っていた火が広がっていった。

やば、い…本当に、死ぬかもしれない…


諦めかけたその時、周囲がいっそう騒がしくなった。


「かっちゃん!!」

「ガハッ、何で!!てめェが!!」


よく見えないが、何かが起こったらしい。

かっちゃんと叫びながら、恐らくカツキくんの知り合いらしき少年が、飛び込んできたのだ。少年は必死に無我夢中でヘドロを掻き出す。


「足が勝手に!!何でって…わかんないけど!!!」


色々理屈はあったのだろう。ただ、やはり人間は二種類に分けられるらしい。彼は、俺と同じ後者だ。



「君が 助けを求める 顔してた」


その言葉に、俺は目を閉じる。彼が誰だか知らないが、その言葉はヒーローそのものだった。










mokuzi