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ーーー周囲は瓦礫と火に包まれている。
「おおォオオオッ!!!こぉんのォオッ!!」
「ぁ…ぐ…ッ…く、そ…」
彼の“個性”との相性がすこぶる悪い。彼が抵抗して爆破を起こせば、俺が取り込める酸素濃度が減っていく。何かしようにも、何も出来なかった。
流動体の相手にプロヒーロー達は苦戦している。“敵”を掴むすべがなく、人質のせいもあって下手に手が出せない状態だった。
『空気圧を、放てれば…』
「うえ゛っ」
ヘドロ野郎が彼を操り、プロヒーロー達を攻撃していく。野次馬も集まってしまい、彼らはそれどころではなかった。こういう時、怖いもの見たさに集まってくるのは、どこの世界も同じらしい。
有利な“個性”が来るのを待つしかないと、どこからとまなく聞こえてくる。
「あの子達には悪いがもう少し耐えてもらおう!」
そんな流暢なことは言っていられないのだ。俺は既に半分飲み込まれているし、同じように取り込まれているからこそ分かるが、抵抗している彼も意識を保つのにギリギリの状態だ。
あと少しなんて言っていられない。
『せめて…この火を…なんとか…』
ーーー考えろ、考えるんだ。
俺は思考をフル回転させる。
燃焼が継続するには可燃物、酸素、温度の3つの要素が揃う必要がある。極端な話、これらのうちのどれか1つを取り除くと燃焼は停止、すなわち消火できる。
消火の方法は様々だが、空気を操る俺に出来るのは…
「お、おい!火が消えてくぞ!」
「バックドラフト!お前か!?」
「俺じゃない!これは、あの子の“個性”だ!」
ーーー窒息消火法。
酸素の供給を止めたり、周囲の酸素濃度を下げたりして燃焼を止める消火法である。俺は火に向けて手を伸ばし、火の周りの空気をギュッと握り潰すように手を握り締める。
消火は上手くいったようでひと安心するも、ぐるりと首周りのヘドロに力が込められた。
「ぁッ、ぐ…ッ、う゛…ッ…」
「余計なことしてんじゃねぇよぉお!」
首を絞められ、酸素が薄れる。力が抜け、瞬く間に残っていた火が広がっていった。
やば、い…本当に、死ぬかもしれない…
諦めかけたその時、周囲がいっそう騒がしくなった。
「かっちゃん!!」
「ガハッ、何で!!てめェが!!」
よく見えないが、何かが起こったらしい。
かっちゃんと叫びながら、恐らくカツキくんの知り合いらしき少年が、飛び込んできたのだ。少年は必死に無我夢中でヘドロを掻き出す。
「足が勝手に!!何でって…わかんないけど!!!」
色々理屈はあったのだろう。ただ、やはり人間は二種類に分けられるらしい。彼は、俺と同じ後者だ。
「君が 助けを求める 顔してた」
その言葉に、俺は目を閉じる。彼が誰だか知らないが、その言葉はヒーローそのものだった。
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