親の心、子知らず


夕方、今日の晩飯は何だろうかと考えていると、丁度考えていた相手から電話がかかってきた。

お仕事頑張ってくださいね、なんて言われれば、誰だって嬉しくなるだろう。目の前の男がニヤニヤとこちらを見てくる。


「空悟からの電話だろ?お仕事頑張ってくださいねなんて、ほんと羨ましいぜイレイザー!」


「…盗み聞きするな。大体、お前いつからあいつのこと名前で…」


「はは〜ん…嫉妬か?男の嫉妬は見苦しいぜ?」


「そんなんじゃない」


気がつけばお互い名前で呼びあっていることなんて、別に気にしちゃいない。俺自身、あいつの“相澤さん”呼びは気に入っている。……そこに、他意はない。

調子に乗るならもう家に入れないぞと言えば、文句を言いながらも引き下がった。そんなに気に入ったのか。






あいつとの不思議な出会いから、2ヶ月が過ぎた。

見た目は子どもだが、中身は28歳。最初は少し疑いの目もあったが、俺への言動や気の使い方、空気の読み方が、社会に出た人間そのものであり、すぐにこいつは嘘をついていないのだと考えを改めた。


初日、校長に言われたことを文句も言わず、俺と行動を共にすることを受け入れた。病院での依代守形の件もそうだが、場の空気をいい意味でも、悪い意味でも読む奴らしい。

色々とカマをかけてはみるが、彼の言動に綻びは見えない。彼は、本当にただただこの世界に来てしまった普通の一般人で、個性事故の被害者なのだ。


あの日の帰り道、あいつは俺の目を見て「お世話になります」と言った。全てを悟っているようなそんな表情だった。

校長室を監視する警察が、あの場にいたのは俺と校長しか知らない。しかし、何かを悟ったあいつは空気を読み、自身の置かれている状況と処遇を受け入れたのだ。


ーーー俺は、プロヒーローだ。


表には出ず、“敵”と疑わしき人物を秘密裏に動いて調べることを得意とし、“個性”を“抹消”できる俺だからこそ、依代守形の姿をしている風間空悟の監視役に選ばれた。




2ヶ月過ごして、本当に彼は危険人物なのだろうかと心が揺らぐ。


俺に対して、必要以上に干渉しない。気が利くし、家事もでき、飯も美味い。時々ぼんやりとしているが、あれは何か考えている時だということも分かるくらい、あいつのそばにいる。


俺は、ぬるくなった茶を啜る。あいつの茶の方がうまいな、なんて思いながら、俺は教師としての仕事を進めた。








mokuzi