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放課後になり、校内に残っている生徒も疎らになってきた頃。職員室に入れば、備え付けのテレビに職員たちが群がっていた。

どうやらなにか事件が起きたらしく、詳しく知るために俺もその場に近づく。


「何があった」

「ヘドロのような“個性”を持ったやつが暴れてたらしいぜ。もうオールマイトが解決済み」


テレビに視線を移すと、少し前に起きた事件の速報が流れていた。野次馬が撮ったであろう映像が流れている。

爆破系の“個性”を持った子どもがヘドロに取り込まれ、その力を振り回している。抵抗すればするほど、被害が広がっていく。

辺りは火に包まれ、消火も間に合っていない状態だった。


「流動体で掴めないって感じだなぁこりゃ、俺も無理だわ」

「お前のは声がでかいだけだからな」

「イレイザー、最近俺への当たりキツくない?」



オールマイトが助けたのであれば、事なきを得たのだろう。俺はテレビから目を話そうとした。しかし、それは叶わなかった。


「おや、火が消えましたね」

「この取り込まれている子と、もう一人取り込まれてたみたいで、その子がやったらしいわよ」


セメントスとミッドナイトが交互に喋る。否、俺はそれどころではなかった。あの伸ばされた手は、まさか…


「………イレイザー!!!何であの子外出てんの!!???」

「クソッ、」


一瞬だが伸ばされた手の持ち主の顔が映る。首に巻きついたヘドロで首を絞められているのか、悲痛に歪んだあいつの顔。あいつの力が弱まり、火の勢いが強まる。

オールマイトによって助け出された映像も映し出された。オールマイトが掴みきれなかったあいつが宙を舞う。


「イレイザーにマイク、どうしたのよ」

「イレイザー電話!!!電話しろって早くッ!!」

「分かってるッ、今」


電子端末を手に取ると、丁度着信音が鳴り響いた。
ディスプレイに映し出される《風間空悟》の文字。

覗き込んできたマイクが慌てて通話ボタンをタップすると、周りも何事かと静まり返った。



「……風間?」


返事はない。あちらから何も応答がなく、痺れを切らしたマイクが俺から端末を奪うと、声を荒らげた。


「空悟!?生きてるか!?」

『……ヒュ-…ッ……ヒュ-…ッ…』



ーーー弱々しい呼吸音。


考える前に俺は職員室から飛び出すと、事態を理解しているマイクが後からついてくる。


「イレイザー!!車回す!!!」

「先に行くッ!途中で拾え!!!」



ーーー急げ、一刻も早くあいつの元へ


意識の薄れる中、俺のことを信じて最後の力を振り絞ったのだろう。あいつが頼れるのは、俺しかいない。

嫌な汗が流れる。あいつと過ごしていて分かったのは、中身は28歳だとはいえ、依代守形と融合している状態にあるあいつは、身体の作りも感情の起伏も体の持ち主に引っ張られる傾向がある。


怖い思いをして、怪我をして、一人帰って、自宅という安心できる場所で、緊張の糸が切れる。


あいつは知らないのだ。
俺がどういう感情を抱いているか。


お前が俺の顔色を伺い、気を使うたびに、監視者と対象者として向かい合うしかない状況を作られるたびに、胸が締め付けられているを知らないだろう。

俺は、死にものぐるいで足を動かした。



マイクが車をぶっ飛ばしたお陰で、時間はそう経ってはいないが、人生で一番長い時間を過ごした気がした。

俺とマイクが部屋に向かうと、ドアは鍵がかかっておらず、簡単に入れてしまった。恐らく、玄関で発作が起こったのだろう。

リビングへと駆け込むと、ソファの影から覗く足。人が横たわっているのが分かり、慌てて駆け寄る。


「風間ッ!!!」

「………」

「マイクッ!」

「わかってるっての!!」


既に意識がなく、ぐったりとしている様子に俺は顔を顰める。見たところ“個性”の使いすぎによる酸欠状態だった。

俺は床に寝かせ、人工呼吸を始める。こいつの部屋にある酸素ボンベを取りに行くのは非合理的だ。


俺とマイクは救急車が来るまでの間、人工呼吸を繰り返した。








mokuzi