25
放課後になり、校内に残っている生徒も疎らになってきた頃。職員室に入れば、備え付けのテレビに職員たちが群がっていた。
どうやらなにか事件が起きたらしく、詳しく知るために俺もその場に近づく。
「何があった」
「ヘドロのような“個性”を持ったやつが暴れてたらしいぜ。もうオールマイトが解決済み」
テレビに視線を移すと、少し前に起きた事件の速報が流れていた。野次馬が撮ったであろう映像が流れている。
爆破系の“個性”を持った子どもがヘドロに取り込まれ、その力を振り回している。抵抗すればするほど、被害が広がっていく。
辺りは火に包まれ、消火も間に合っていない状態だった。
「流動体で掴めないって感じだなぁこりゃ、俺も無理だわ」
「お前のは声がでかいだけだからな」
「イレイザー、最近俺への当たりキツくない?」
オールマイトが助けたのであれば、事なきを得たのだろう。俺はテレビから目を話そうとした。しかし、それは叶わなかった。
「おや、火が消えましたね」
「この取り込まれている子と、もう一人取り込まれてたみたいで、その子がやったらしいわよ」
セメントスとミッドナイトが交互に喋る。否、俺はそれどころではなかった。あの伸ばされた手は、まさか…
「………イレイザー!!!何であの子外出てんの!!???」
「クソッ、」
一瞬だが伸ばされた手の持ち主の顔が映る。首に巻きついたヘドロで首を絞められているのか、悲痛に歪んだあいつの顔。あいつの力が弱まり、火の勢いが強まる。
オールマイトによって助け出された映像も映し出された。オールマイトが掴みきれなかったあいつが宙を舞う。
「イレイザーにマイク、どうしたのよ」
「イレイザー電話!!!電話しろって早くッ!!」
「分かってるッ、今」
電子端末を手に取ると、丁度着信音が鳴り響いた。
ディスプレイに映し出される《風間空悟》の文字。
覗き込んできたマイクが慌てて通話ボタンをタップすると、周りも何事かと静まり返った。
「……風間?」
返事はない。あちらから何も応答がなく、痺れを切らしたマイクが俺から端末を奪うと、声を荒らげた。
「空悟!?生きてるか!?」
『……ヒュ-…ッ……ヒュ-…ッ…』
ーーー弱々しい呼吸音。
考える前に俺は職員室から飛び出すと、事態を理解しているマイクが後からついてくる。
「イレイザー!!車回す!!!」
「先に行くッ!途中で拾え!!!」
ーーー急げ、一刻も早くあいつの元へ
意識の薄れる中、俺のことを信じて最後の力を振り絞ったのだろう。あいつが頼れるのは、俺しかいない。
嫌な汗が流れる。あいつと過ごしていて分かったのは、中身は28歳だとはいえ、依代守形と融合している状態にあるあいつは、身体の作りも感情の起伏も体の持ち主に引っ張られる傾向がある。
怖い思いをして、怪我をして、一人帰って、自宅という安心できる場所で、緊張の糸が切れる。
あいつは知らないのだ。
俺がどういう感情を抱いているか。
お前が俺の顔色を伺い、気を使うたびに、監視者と対象者として向かい合うしかない状況を作られるたびに、胸が締め付けられているを知らないだろう。
俺は、死にものぐるいで足を動かした。
マイクが車をぶっ飛ばしたお陰で、時間はそう経ってはいないが、人生で一番長い時間を過ごした気がした。
俺とマイクが部屋に向かうと、ドアは鍵がかかっておらず、簡単に入れてしまった。恐らく、玄関で発作が起こったのだろう。
リビングへと駆け込むと、ソファの影から覗く足。人が横たわっているのが分かり、慌てて駆け寄る。
「風間ッ!!!」
「………」
「マイクッ!」
「わかってるっての!!」
既に意識がなく、ぐったりとしている様子に俺は顔を顰める。見たところ“個性”の使いすぎによる酸欠状態だった。
俺は床に寝かせ、人工呼吸を始める。こいつの部屋にある酸素ボンベを取りに行くのは非合理的だ。
俺とマイクは救急車が来るまでの間、人工呼吸を繰り返した。
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