風間空悟:オリジン


真っ暗な空間で意識が浮上する。

ここは、どこだろうか。


ぼんやりとした視界が徐々に鮮明になってくる。目の前には、小さな男の子が座り込んでいた。


「………おと、う…さん…」

「守形ぁ…ほぉら、今日もお仕事行こうなぁ…お父さんのこと、助けてくれるだろぉ…?」


部屋の隅に座る男の子には見覚えがある。あの時助けた依代守形くんだ。彼の虚ろな赤い瞳が俺を見つめるが、俺を見ているわけではなく、部屋に入ってきた男性を見ていた。


これは恐らく、守形くんの記憶だ。

ドアから入ってきた男は、彼の父親らしい。守形くんの身体の傷や心の病の原因であると、俺が一番疑いをかけている人物だ。


「今日もいっぱい…操ろうなぁ…?お人形さん、好きだろぉ…?」


「……いきたく、ない…やだ…」


「………あ゛?」


ドスの聞いた声が室内に響き渡る。先程までニコニコしていた男が、血相を変えてこちらに詰め寄ってきた。この顔は、やばい。慌てて俺は身体を盾にしようとするも、すり抜けてしまった。


「う゛っ…!」


「誰がここまで育てたと思ってるんだ!?ぁあ!?お前が生きていくのには俺が必要だろうが!!お前は俺の子供だろぉお!?子供の“個性”を好きに使って何が悪い!!?」


怒鳴り散らしては暴力を振るう。彼の身体の傷の原因はこの父親で、この子は父親の悪行のために無理矢理“個性”を使わされていたのだ。


俺は唇を噛み締める。どう足掻こうとこの状況は変わらず、拳を握りしめた。



バッと辺りが暗闇に包まれ、場面が切り替わる。


ビルの一角から守形くんが父親に言われ“個性”を使うと、銀行に入っていく男性の視点に切り替わった。

そこからは自分の目を疑った。男性は至って普通のサラリーマンだったが、突然銀行強盗を謀ったのだ。守形くんが見てきたものの一部始終が、走馬灯のように流れていく。


彼の個性は“憑依”

対象の人間に文字通り“憑依”し、身体を操る。個性を解けば、憑依されていた人間は何も覚えていない。だから、足もつかなければ、バレることもない。関係の無い人間だけが、犠牲になる。



「巻き込んで、ごめんなさい」

「……守形くん」


司会が暗転すれば、眼の前に初めてあった時と同じ姿をした守形くんが立っていた。








mokuzi