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何も無い空間に、自分と守形くんだけになった。恐らく、身体に残っている守形くんの意識と会話している状態なのだろう。



「…俺は、自ら死のうとしていたけど…君は、もう誰も巻き込みたくなくて、死を選んだ…」

「……生きているのが、辛かった…僕は、ヒーローになりたかったのに…」


父親に命じられ、させられている行為は“敵”そのもの。小さな身体では、その現実と自分の存在に耐えられなかったのだ。


「……俺は、君に助けられた。君は俺のヒーローだよ」

「……お兄さんは、死にたかったのに…?」

「うん。死にたかった…でもそれは、逃げたかっただけなんだ」


彼の辛さに比べれば、俺なんてそこら辺のサラリーマンはみんな経験することなのかもしれない。軽率に命を投げ出した俺だったが、どんな形であれ、彼に救われてここにいる。


「守形くん、ヒーローになろう」

「……僕は、もう…」

「俺と一緒に…俺に力を貸してほしい」


目線を合わせ、真っ直ぐ目を見て話す。彼は、まだ間に合う。まだ希望を捨ててはいない。だから、まだ意識がある中で俺に身体を託した。


「……お兄さんは、僕のこと…恨んでないの…?」

「恨むもんか。俺の生きていた世界より、結構楽しいよ」

「……お兄さんはやっぱり、ヒーローだ」


ふわりと守形くんが微笑む。年相応の柔らかく、可愛らしい表情に、思わずこちらも頬が緩む。



ーーーよかった。やっと笑ってくれた。



「俺は君のヒーローで、君は俺のヒーローだ」

「ふたりで、ひとり?」

「いいな、それ。ニコイチヒーロー?」

「ふふ、なぁにそれ」


そうだ、たくさん笑えばいい。守形くんが笑えるように、最高のヒーローになろう。


彼が、絶望してこのまま消えてしまわないように…



俺は、小さな身体を抱きしめる。この身体で、沢山背負ってきたのだ。なら俺も、君の抱えたものを背負っていこう。


「最高のヒーローになろう、守形くん」

「うん。…空悟、にぃ?」

「わぁ、照れるなそれ」

「僕ひとりっ子だから、お兄ちゃんがほしかったんだ」

「一緒だ。俺も、弟が欲しかったんだ」



ーーー俺たちはひとりじゃない。




ここが、俺と君との“原点”だ。










mokuzi