28
ゆっくりと意識が浮上すると、俺の顔を覗き込んでいる相澤さんとひざしさんがいた。二人は目を丸くさせ、驚いた顔をしている。
「……すごいかお…」
「……第一声がそれか?」
「髪!どうしちまったんだ!?」
「か、み…?」
ひざしさんに手鏡を渡され、身体を起こして覗き込む。そこに映し出された俺は、左右で色が変わってしまっていた。
右側はふわりと風に揺れるさらさらとしたブロンズヘアなのに対し、左側は淡い空の色をしており、短髪でツンツンとしている。これは、本当の意味で俺と守形くんが身体を共有した証なのかもしれない。
「……俺、守形くんに会いました。会って、話して、守形くんの過去を知ったけれど、それでも、やっぱり俺はヒーローを目指します。今度は、彼の力も借りて…二人で」
「…それが、証か」
「はい、ここが俺と守形くんとの原点です」
胸に手を当てて、彼を感じる。今は弱々しいけれど、恐らく今後彼とも話せるようになるだろう。そうすれば、もっと俺は強くなれる。
「…風間、俺はお前が思っているよりも、お前のことを考えているつもりだ。…察しのいいお前なら、自分の置かれている立場を弁えてるのかもしらんが、今そんなことはどうだっていい」
「……え…」
相澤さんが真っ直ぐと俺の目を見る。言葉の意味を理解することが出来ず、俺はただただ首を傾げるしかなかった。
「本当に上を目指すなら、この関係はやめよう。お前は…いや、お前達は今日から俺の家族だ」
「……それって…」
「警察がどうとか知ったことか。いつまでも遠慮しあってちゃ、合理性に欠けるよ」
「……あい、ざわ…さ…」
ずっともやもやと不安定だった足場が、居場所を作り始める。彼と俺は、とても似ている。似ているからこそ、遠慮し合い、お互いがお互いに差し支えない関係で保っていた。
ーーーその関係が、距離感が、二人の間にそびえ立っていた壁が、崩れ去る。
「っ、…」
「…泣くな。28歳だろ」
「こ、これは、あれです、守形くんの涙腺です…くそっ、いきなり壁、越えてくんなよ…」
敬意も忘れて、本音が零れる。俺も守形くんも、自分が独りだと思い込み、関係に名前をつけることに臆病になっていたのかもしれない。
目を擦り、顔を上げる。擦ると赤くなるかもしれないが、これが手っ取り早かった。
「遠回りは、「合理性に欠けるんでしょ…」…そういうことだ」
相手の言葉を遮るように、言葉を発する。もう遠慮は必要ないのだ。
ーーー俺は空気が読める。
そうと決まれば、家族を苗字で呼ぶのも、敬語も、極力無くしていかないと…そう頭の中で、守形くんが嬉しそうにしているのがわかった。
「………改めて、お世話になります……消太さん」
「…宜しく、空悟」
俺と消太さんは、照れくさそうに頬を緩めた。
「お二人さん、俺の事忘れてない?」
「「あ」」
「何この二人の世界!!!説明プリーーーーズ!!!」
完全に存在を忘れていたひざしさんに、俺と消太さんは今日までのことを説明する。ひざしさんは疑うことはせず、俺たちを受け入れてくれた。
俺は困っている人を助ける二人のような立派なヒーローになりたい。
前を向いて、まずは目の前の壁を乗り越えよう。
ーーー雄英高校受験まで、あと10ヶ月。
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