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演習場に入ればそこは本当に市街地のようだった。そして、実技試験はスタートのカウントダウンもなく、ひざしさんのハイスタートという合図で突然始まった。
合図の遅れを取り戻そうと全員が駆け出すと、瞬く間にそこは戦場と化した。
「ーーー…っ、1ポイントばっかッ!」
《空悟にぃっ、10ポイント目!》
俺はというと、あちこちで空気の振動があり、上手く仮想敵を察知することが出来ず、思いの外ポイントが伸びずにいた。
索敵部分は今後の課題だなと思いながら、空気圧を纏った拳と足で行動不能にしていく。
ポイントが伸びない理由は他にもあった。やはり説明の時に思っていた通り、個性が戦闘向きではない人達が他の受験者の攻撃によって崩れた瓦礫などに足を取られる場面が多く、俺はそれを助けて回っていたからだ。
「やっ、やばっ…!」
「あっぶね…、大丈夫か?」
「ぁ、ありが…とう…」
落ちてくる瓦礫に気づいていなかったパンクっぽい服装の女の子を庇う。彼女は戸惑いながらも礼を言うと、また別の方向へ走っていってしまった。
個性を存分に使っている爆豪を見上げる。いくら試験だとはいえ、“敵”と戦いつつ、民間人を巻き込まないようにするのがヒーローなんじゃないかなぁと思ってしまう。
まあ、そのせいでポイントは伸びていないのだが…
「守形の“個性”、使うか」
《!…いいの?》
「うん。どうポイントに影響するのか分からないけど、俺がやるより効率がいい」
《…ふふ、消太さんみたいだ》
ーーー“効率がいい”
俺から出たその言葉に守形が笑った。俺は彼と似てきてしまっているようで、その事に何故かむずむずとしてしまう。
動けずにいる少年に距離を詰め、大丈夫かと肩を叩く。
この10ヶ月。俺自身の“個性”を伸ばすと共に、依代守形自身の“個性”を伸ばすことにも力を入れてきた。
ーーー生き物に“憑依”できる彼の個性
彼の個性は“敵”向きなんかじゃないと証明するために、救助に役立てようにもなかなか実践する機会がなかったが、今がその時だった。
「《“憑依”!》」
俺と守形の声が重なると、肩を掴みこちらを向かせていた目の前の少年の首がガクンと項垂れた。本来ならば相手を見ているだけで“憑依”することが出来たが、今は彼の力が弱まってしまっているため、相手に触れ、目を見ながら発動する。
項垂れていた少年が顔を上げると、目の色は赤くなっていた。
「《できた!動けるよ!》」
「よし、そのままその子を安全なところへ移動させてくれ。…離れての実践は初めてだから、無理しないこと」
「《ん、わかったっ》」
「…じゃあ、また後でな守形」
「《空悟にぃ、また後で!》」
彼の中に入った守形は、そのまま安全な方へ走っていく。彼を見送れば、自分のポイントを稼ぐ為に背を向ける。
彼の“個性”は、憑依している人の“個性”を使えるわけではない。そして、デメリットはというと、憑依している間は自身の身体が疎かになるということだ。
生前は父親が身体を見張っていたらしいが、今は俺が中にいるため、そのデメリットは解消された。
俺が体を動かし、守形が民間人を誘導する。これが俺と彼の理想のヒーロー像だ。
「勝己ッ爆破しすぎだっての!被害のこと考えろ!!」
「あ゛ぁッ!?このエアプ野郎が!!邪魔すんな!!!」
俺は足の裏に空気を圧縮し、空中を飛び交いながら仮想敵を倒す。彼の個性は派手で目立っているからか、仮想敵がうじゃうじゃと寄ってきては倒される。
「けほっ、やっぱ相性悪い…」
「なら来んなやッ!!!」
「漁夫の利、狙ってんッ、だよ!」
彼の周りは空気が悪い。しかし、そんなことに今は構っていられないのだ。俺だって合格したい、その一心で個性を放つ。
《わッ、ひ、引っ張られた…》
「ーっ、と、おかえり守形」
《ただいま…っ!何人か立て続けに“憑依”してみたけど、限界みたい…》
「大丈夫、ありがとな」
暫くして戻ってきた守形は、“個性”の限界を感じながらも、人助けができたことに嬉しさを覚えている。途中、気になる“個性”の人がいたらしいが、その話は後で聞くことにした。
一体、どれくらい倒しただろうか。何点が合格ラインなのか知らされていないため、最後まで全力を出すしかない…時間的にもうそろそろか、そう思っていた時だった。
ーーーBOOOOOMッ!!!
「ッ、で、かッ!!」
「ハッ、上等だクソが…ッ」
お邪魔虫の特大ギミックが姿を現したのだ。
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