合理的サプライズ


大きなモニターに試験映像が映し出される。雄英の入試は敵の総数も配置も伝えず、如何にして限られた時間と広大な敷地で平和を守るための基礎能力が発揮できるかを見る試験である。


ーーーこの試験は、些か合理性に欠ける。


【情報力】【機動力】【判断力】【戦闘力】


この四つを見ると謳っておきながら、結局は仮想敵を倒したポイント制。仮想敵を倒すことのできる“個性”を持っていなければ、合格することは出来ないのだ。

モニターを見ているとやはり動けずにいる受験者は何名も見られた。そして、その動けずにいる受験者を助ける者もちらほら見える。


この試験では、“敵ポイント”だけを見ている訳では無い。それは“救助活動ポイント”であり、ヒーローにとって欠かせない大前提の“自己犠牲の精神”である。

しかもそのポイントは審査制であり、今は試験の映像を見て、一人一人の救助活動ポイントを審査している時間だ。



「…この時間が1番合理性に欠けると思ってんだが?」

「イレイザーそんなこと言うなって!影で頑張ってるやつがいるかもしれねぇだろー?」


ポツリと零せば、マイクに指摘される。こいつホント耳いいな…

進行されていく審査を見ていれば、やっとあいつの番が来たらしく、隣のマイクも反応を見せた。


思っていた通り空悟は救助活動をしているようで、前半の“敵ポイント”はあまり伸びてはいなかった。しかし、途中から救助活動をせず、仮想敵を倒すことに専念し始めた。


「彼は途中から救助活動をやめてるね」

「やはりポイントに走ったかぁ」


口々に憶測が飛び交う。一体こいつらはどこを見てそんなことが言えるんだ。マイクもそう思ったのか、手元を操作して映像を巻き戻し、音量を上げてる。…別に贔屓はしてねぇ、公平な審査をしてるだけだ。

音量が上がると「《“憑依”!》」という言葉が聞こえ、文字通り憑依したであろう相手と言葉を交わしているあいつの姿が映し出された。


「おいおい見ろよ!この子の“個性”だ!」

「“個性”の複数持ちか!戦闘向きではない“個性”も上手く使っている!」


その後も憑依された方の受験者を追えば、逃げ遅れている受験者の肩を叩き、“憑依”を繰り返していた。その行動にも称賛の声が上がる。


「イレイザー、めっちゃドヤ顔…」

「してねぇ」


俺が面倒見て育てたあいつが、こんなところで落とされてはたまったもんじゃない。ただ、それだけの話だ。

最後、倒れてきた巨大ギミックを支える映像が流れる。下敷きになりそうだった受験者を助けるために全力の壁を繰り出したようで、その後は酸欠状態でその場に倒れ込んだ。


「彼は“個性”の応用力が高い!」

「是非とも入学してもらおう!」

「(………ったく、わいわいと…)」


その後ぶっ倒れてちゃ意味がねぇ。帰ったら説教コースだなと決め込んで、俺は審査に移ることにした。








mokuzi