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一番にポストを覗き込んでやろうと思っていたのに、この人はそういうサプライズ感が足りない。


「なんで郵送じゃないんだよ…!!通知を待つドキドキ感ってあるでしょ!?」

「合理的だろ」


まさかの手渡しで合否通知を渡される。俺は部屋に篭もり、封を開いた。流石にあの場で開けるのは、何だか恥ずかしかったからだ。

封を開けると中から投影機が出てきた。文字で見るんじゃないのかと投影機を手に取ると、ブンッという音と共に映像が映し出された。


『風間空悟、合格』

「合理的サプライズだッ!?」


映し出されたのは消太さんで、しかも開口一番がそれだった。合理性を求める彼の極端な合否通知を受け、心の準備も出来ておらず、思い切りサプライズ感を味わい、声を荒らげてしまう。


ーーー…え、合格?


『筆記は申し分ない点数。そして実技だが、敵ポイントは24点。上位は総合点数が50点を超えている奴がほとんど。それだけならお前は当然不合格だ』

「…少な………え、なら、なんで…」

『今回の入試、見ていたのはそこだけじゃない』


計算が合わない。そう思っていると、消太さんの言葉を続けた。俺はその続く言葉に、次第に身体が震えてくる。

今回の入試は仮想敵を倒した時に得られる“敵ポイント”だけではなく、審査制の“救助活動ポイント”も見られていたのだ。

俺は審査員から“個性”の複数持ちでありながら、その制度の高さ、応用力、そしてヒーローとしての自己犠牲の精神。



ーーーそれを踏まえた俺の“救助活動ポイント”


『50ポイント』

「っ……は、はは…」

『合計74ポイントで合格だ。…おめでとう』


俺は込み上げる涙を拭い、リビングでいるであろう彼の元へ向かった。

案の定、彼はリビングのソファに座って寛いでおり、俺は興奮冷めやらぬまま彼へと近づく。


「消太さんッ!!!!」

「…煩い」

「っ…あの、あの!……面と向かって言って欲しかったりするんですけど…!」

「………空悟、守形」

「っ、はい…っ」

《っ、!…っ、ん…っ》


興奮したまま彼の元へと駆け寄ると、消太さんは俺の目を見て言葉を紡ぐ。彼の目は、俺の中にいる守形をも捉えているようだった。


名前を呼ばれた守形も、身体をこわばらせているのが分かる。今度は、投影された映像なんかではなかった。


「合格おめでとう」

「《…っ、はい…!》」

「敵ポイントだけなら落ちてたぞ」

「…ねぇ、消太さん。今の流れで上げて落とします?」


そういうところですよと相手に諭しながら、ソファに腰掛ける。何となく彼の方にもたれ掛かると、嫌そうにはせず頭を撫でてくれた。


ーーー頑張ってよかった。人を助けてよかった。


俺と守形の目指すヒーロー像が少し認められた気がして、俺はその優しい手つきに目を閉じた。

髪に消太さんの手のひら以外の感触を感じたが、それが何なのか、今の俺には分からなかった。







「お前らホント何なの…」

「あ、ひざしさんいらっしゃ、むぐっ」

「………余程、死にてぇらしいなマイク…」


消太さんに抱き寄せられ、胸元に顔を埋めさせられる。耳も塞がれ、二人のやり取りは聞こえなくなってしまった。


「イレイザー、見た目子供なんだからマジで手出すなよ…!?」

「鍋の肉抜き」


何はともあれ、無事に合格出来てよかった。ぼんやりと二人のやり取りを感じながら、俺と守形は第一歩を踏み出したのだった。








mokuzi