個性派揃いの入学式


真新しい制服に袖を通す。今日から俺は、2度目の高校一年生を迎える。


「消太さん、朝食べずに行ったな…」


冷蔵庫の中のゼリー飲料の個数が減っていることに落胆する。入学式当日のため、職員である彼は俺よりも早く出勤したらしく、朝食を作る暇がなかったのだ。

タイミングが合えば渡そうと彼の弁当を持ち、俺は雄英高校へ向かった。


大きな門を潜り、大きなドアの前に立つ。俺と守形が最高のヒーローになるために、ヒーローとは何かを学ぶ場所。


「…ヒーロー科、A組……ここか」

「はよ入れや、エアプ野郎」

「うぉっ、…勝己!」

「名前で呼ぶなっつってんだろクソが!!」


ドアを開けようとすると、後ろから耳に残るあの声が聞こえてきた。バッと後ろを振り返ると、不機嫌そうにこちらを睨みつけている爆豪の姿。

戦闘向きであの入試にはうってつけだった“個性”である彼なら当然受かっているだろうと思っていたが、まさか同じクラスになるとは…人生何が起きるか分からない。


「同じクラスってことは、今度こそ宜しくな?」

「死ね…!」


彼は掌で爆破を起こし、俺を押しのけて教室へ入っていく。向けられた恐ろしい単語に、こいつ本当にヒーロー志望なのかと苦笑するしかなかった。

教室に入ると先程の爆豪とのやり取りもあってか、俺の方にも目線が集められた。変に目立ってしまったので、おはようと無難に返しておく。


「あー!!風間じゃん!もしかして同じクラス!?」

「上鳴!また会えたな」

「ちょー運命じゃん俺ら〜!!」


試験の最後に助けた金髪の彼、上鳴電気も同じクラスのようで、お互いまた会えたことに言葉を交わした。上鳴と話していると、その後ろから少し躊躇いながらも女の子が声をかけてくる。


「あ、あのさ…あの時助けてくれた人、だよね?」

「えっと、あ、試験の時のパンクっぽい子」

「ウチどんな覚え方されてんの…耳郎響香、宜しく。…あ、あの時はありがと…助かった」


耳郎響香と名乗る彼女は、試験の序盤に助けたパンクっぽい服装の女の子だった。お前らも知り合いなのかと上鳴も含めて談笑する。


「てか耳郎、俺ら助けられた組じゃん?何かの縁だし今度お茶しねぇ?」

「初日でナンパするか普通…」

「風間も付けるから!な!?」

「…まあ、風間がいるならいいけど」

「……え、俺?」


世間は狭いなぁ…とぼんやりと考えていると、急に話題を振られて戸惑う。普段消太さんと暮らしているからか、和気あいあいとした高校生らしい乗りには少しテンポが遅れてしまう。

心の何処かで、自分よりも歳下の子供たちと認識してしまっているのかもしれない。話を続ける上鳴と耳郎に声を掛け、俺は席に着くことにした。


昨年までの例でいくと一般入試の定員が18人だったが、今年はそこに推薦枠として2名追加されたらしい。しかし、何故かこのクラスは21人で一番後ろの列が5席になっていた。

黒板に張り出されている紙には、一番後ろの席の真ん中に俺の名前が書いてあった。


自分の席に向かうと、隣の席に着席している生徒と目が合う。


ーーー左右で赤と白に分かれた髪に、オッドアイ


「………」

「……俺の顔になんか付いてるか」

「あ、いや…お揃いだなぁと」

「…お揃い…?」


自分の髪を触りながら相手に笑いかける。何となく、彼も色々と背負っているのかもしれないと勝手に思ってしまった。俺の言葉に彼の瞳が少し揺れたが、すぐに無表情へと戻る。


「悪い、今の忘れ…」

「…お前も複数の“個性”持ってんのか」

「えっ、」


相手の言葉に耳を疑う。お前“も”ということは、恐らく彼も個性を複数持っているのだろう。興味というには程遠い、なにか意図を含んだ彼の表情に視線を外せずにいると、教室の出入口から声が聞こえてきた。


「お友達ごっこしたいなら他所へ行け。ここは…ヒーロー科だぞ」


消太さんの声が聞こえてきたかと思うと、ゼリー飲料を吸い込み、寝袋からぬるりと出てきた彼は担任だと名乗る。そして、寝袋から体操服を取り出し、グラウンドに出ろと言ってきた。


「……担任だなんて聞いてない…」


ツートンカラーの彼との会話はあやふやなまま終わり、俺は消太さんが担任だという事実と、当然のようにゼリー飲料を口にしていた彼へ一言言ってやろうと、グラウンドへ向かった。








mokuzi