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あのカラスには守形が“憑依”している。これは守形と意思疎通ができる距離を知る為にも、いい機会かもしれない。


「嘘だろ!?カラス操れんの!?」

「……同胞」


後ろを振り返ると、上鳴と鴉っぽい顔の男子生徒が声を上げる。俺は愛想笑いで返し、再び守形が飛んでいった方向を見れば、彼の姿は見えなくなっていた。


「守形、俺の声聞こえてるか?」

《うん、まだ聞こえてるよ!》

「よし。話も通じてるし、結構距離も伸びたな」


俺が見えていない距離でも、彼とは意思疎通ができるようになったらしい。それならば、このまま行けるとこまで行ってもらおうと、彼と言葉を交わしながら距離を伸ばしていく。


《ぅあっ、あ…ただいまぁっ》

「っと……おかえり、守形」

「……1km」

「「い、1km!?」」

《やったぁっ!》


結果は、1km。これはなかなかいい数字であり、守形もとても嬉しそうにはしゃいでいる。途中、恐らく声が聞き取りにくくなったため、まずはそこが改善点だろう。

2回目は空圧を使って投げ、記録は670mだった。




その後順調に体力テストは進み、結果発表となったのだが、消太さんはしれっと除籍処分は嘘だと言い放った。


「君らの最大限を引き出す。合理的虚偽」

「「はーーー!!!!??」」

「なんだ嘘か…」


改めて考えれば、消太さんのしそうな事だと納得がいき、ふぅ…っと身体の力を抜く。

ちなみに、結果は4位。
ボール投げの記録のおかげだ。


着替えて教室に戻ろうと更衣室へ向かう中、ツートンカラーの髪の彼…轟焦凍が話しかけてきた。


「…風間」

「あ、轟…2位おめでとう」

「…お前もやっぱり、複数の“個性”持ってたんだな」

「ああ、うん……轟もそうなんだよな?」

「……ああ、」


彼は、そんなに“個性”の複数持ちが気になるのだろうか。俺のことが珍しくて話しかけてきてるわけではなさそうで、もっと何か聞きたいことがあるように思えた。

先程のテストで片方しか使っていないように見えた彼に、何か理由があるのではないかと1歩踏み出してみる。


「俺の個性は、なんというか…望んで得たものじゃないんだ」

「……っ!!」


カマをかけた俺の言葉に、轟の澄ました表情が強ばる。やはり、彼は二つの個性を持つということに何か思うところがあるらしい。


「でも、個性を二つとも使えるようになりたくて、努力してる最中…かな」

「……お前…嫌いじゃないのか」

「…きらい…?」


俺は、彼の問い掛けに首を傾げる。

“守形の個性”を嫌だと思ったことは、一度も無かった。寧ろ、二人分の個性を持っているのだから、それは俺の強みだと思っている。

“空気”の個性も、“憑依”の個性も、
俺と守形の力なのだ。


「んー…授かった経緯はどうであれ、俺は二つとも使いたいと思ってるよ」

「…俺は、右側だけでNO.1ヒーローになる」

「……それは轟の自由だし、俺はお前の考えを否定するつもりは無いよ。…ただ、」

「…ただ?」

「俺的には、“轟焦凍が使う左側”も見てみたいなぁ…とは思った」


頬を掻き、轟に笑いかける。

恐らく、俺はとても気の抜けた顔をしているのだろう。俺を見ている彼の顔が、呆気に取られたような表情をしていた。

何も言わずこちらを見ている轟に耐えられず、俺は口実を作る。


「…あー…悪い。俺、ちょっと職員室行かなきゃ…」

「…いや、悪ぃ。呼び止めたのは俺の方だ」

「じゃ、じゃあまた教室で」


轟が何か言おうとした前に、俺はその場を後にする。半ば逃げるようにして、俺は着替えてから職員室へと急いだ。












mokuzi