事の始まり、出会い


様々な個性に対応できる設備が整っている国内有数の総合病院。その清潔感のある白を基調とした建物内に、全身真っ黒の見るからに小汚い一人の男が歩いていた。

彼の名は、相澤消太。ヒーロー界では“抹消ヒーロー”イレイザーヘッドとして有名な彼だが、メディアへの露出を嫌うため、知名度の低いアングラ系ヒーローである。

そのせいか、すれ違う人々は誰一人として、彼があのイレイザーヘッドであり、人々を守るヒーローだとは思わなかった。

こちらを探るような視線を感じながらも、相澤は歩を進める。立ち止まること無く、ひとつの病室を目指す。



彼は、合理性を重視する合理主義者であり、時間の無駄を何よりも嫌うのだった。







ーーー2日前


偶然通りかかった住宅街が妙に騒々しい。何の騒ぎかと見上げると、マンションの屋上にふたつの人影が揺らめいていた。


「飛び降りか、ヒーロー要請は…」


そう考えていたのも束の間、屋上から一人が飛び降り、もう一人も後を追うように飛び降りていく。野次馬の悲鳴とひと足遅いサイレンが、周囲に鳴り響く。


「遅い…!」


駆けつけたパトカーを足場に飛び上がると、野次馬の上を抜け、首元の捕縛布に手をかける。先に落ちた一人は少年のようで、大きな風が吹いた後、二人目のスーツ姿の男が追いつく。少年は、男の腕の中に抱き抱えられた。

ベランダの柵に捕縛布を巻き付け、間一髪地面に叩きつけられる前に二人を吊り上げる。聞こえていた悲鳴は段々賞賛の声に変わり、彼はメディアが来る前に二人を降ろした。


「ーーー…どうなってる…」



ーーー彼は自身の目を疑った。


二人を抱え捕縛布を緩めると、そこにはいたはずのスーツ姿の男は居らず、先に落ちた少年だけが意識を失い、眠っていたのだった。

状況を整理する間もなく、不可解な謎が残ったまま、少年は救急車で運ばれて行ってしまった。











mokuzi