戦闘訓練のお時間です


雄英高校ヒーロー科の午前は、普通の授業が行われる。入学2日目の今日は、ひざしさんのテンションだけが高い英語の授業も行われた。

昼は大食堂で“クックヒーロー”ランチラッシュの一流料理を、安価で食べることが出来る。たまには食堂で食べるのもいいかもしれない。



ーーーそして、午後の授業“ヒーロー基礎学”


「わーたーしーがー!!普通にドアから来た!!!」

「お、オールマイトだ…」


コスチュームを身に纏い、前のドアから入ってきた平和の象徴オールマイト。彼はとてもご機嫌なのか、笑いながら教壇に立つ。


「ヒーロー基礎学!ヒーローの素地をつくる為、様々な訓練を行う課目だ!!早速だが今日はコレ!!」


そう言って彼が取り出した手には、“BATTLE”と書かれたプレート。そう、生徒達の期待で胸が膨らむ戦闘訓練だ。

生徒がざわつく中、ガゴッと音がすると壁から戦闘服の入ったケースが出てきた。入学前に送った【個性届】と【要望】に沿って、一人一人にあつらえられているらしい。

俺は自分の番号が書いてあるケースを手に取る。この中に、俺と守形だけのヒーローコスチュームが入っているのだ。


「…コスチューム…」

《ヒーローって感じだね…!》

「ああ、いよいよだ」


流石にこれは、俺でもワクワクしてしまう。ケースを持ちみんなに続いて着替えれば、グラウンド・βに向かった。



着替えたみんなと共に、グラウンドに続く入口を潜る。周りを見渡せば個性的なコスチュームだらけで、サポート会社の趣味嗜好が伺えた。


俺と守形が考えたヒーローコスチュームは、デメリットである大気汚染対策としてガスマスク、目の乾燥を防ぐ事と、憑依している時は俺自身の目がオッドアイではなくなることを考慮して、それを隠すためのゴーグルが装備されている。

手のひらと指先から圧縮した空気を放つ孔を付けることで“空気砲”が使えるようになり、足にも同様のブーツをあしらった。


「始めようか有精卵共!!!戦闘訓練のお時間だ!!!」

「勝己の頭のやつ、刺さったら痛そう」

「あぁ?派手で強そうだろーが」

「まぁ…強そうだし、かっこいいな。見た目って大事だし、敵も怯むわ」

「フン…分かりゃいいンだよ、エアプ野郎が」


鼻を鳴らし顔を逸らした相手は、コスチュームを着たということも相俟って、少しご機嫌である。俺はというと、純粋に褒めたら嬉しそうにする子なんだなぁと、だんだん彼の扱い方もわかってきたことに気分も良くなっていた。


《ガスマスク、かっこいいね…!》

「うん、これがあるとやっぱり息すんの楽だな…」

「ちょっといいかしら」

「…えっと、蛙吹さん?」


ガスマスクの装着具合を調整していると、カエルっぽい見た目の女の子から声をかけられた。ケロッと彼女が鳴く。


「梅雨ちゃんと呼んで、風間ちゃん」

「…んーと、…うん、梅雨ちゃん。どうかしたのか?」

「私思った事なんでも言っちゃうの。体力テストの時も気になっていたのだけれど、あなたの“個性”一つじゃないのかしら」

「あ、それ!俺も気になってたんだよ!」

《………っ…》


蛙吹さ…梅雨ちゃんの大きな瞳が俺を覗き込む。やはり体力テストの時のことが気になっていたようで、赤い髪を逆立てた元気のいい少年、切島鋭児郎も俺の方に近寄ってきた。

俺はどう言うべきか言いあぐねてしまう。守形は以前よりは元気を取り戻し、徐々に自分の“個性”を受け入れてはいるものの、やはり過去のトラウマもあってか、まだ完全に受け入れてはいなかった。


ーーー“憑依”の個性は、人助けに使いたい


それは、守形と意思疎通ができるようになってから言われた言葉だ。その反面、怯えていては前に進めないと、使えるところでは試していきたいとも言っていた。

守形の精神が傾けば、俺自身の動きも鈍ってしまうため、戦闘にはあまり使いたくない。そして、彼が傷つかないように、あまり公にするのは控えたい。

しかし、これから共に上を目指す仲間たちに、嘘もつきたくないのが、守形の優しさであり、強い意志でもあった。


「……確かに梅雨ちゃんの言う通り、一つじゃないよ。でも、まだ秘密だな」

「秘密って…漢らしくねぇよ!」

「まだって言っただろ?戦闘訓練で見せ場があれば、な?」

「…分かったわ。戦う前から手の内を明かす必要も無いもの。楽しみにしてるわね、風間ちゃん」

「ありがとう、梅雨ちゃん」


納得のいかない切島を宥めながら、頷いてくれた彼女に礼を言う。轟に言ったように、守形の個性が嫌いな訳では無い。積極的に“個性”を使いたいと思う気持ちは、確かにある。


《……ごめんなさい…》

「…謝らなくてもいいくらい、俺がお前の個性も使って、最高のヒーローになるよ。だから、使える場面では使っていこうな」

《…うん…っ》


ーーー大丈夫。俺たちは二人で一人なのだから。








mokuzi