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先生慣れしていないオールマイトは、彼の体には不釣り合いな小さく折りたたまれたカンペを読み上げる。
戦闘訓練の状況設定は、【敵】がアジトに【核兵器】を隠しており、【ヒーロー】がそれを処理しようとしているというものだった。
【ヒーロー】側の勝利条件は、制限時間内に【敵】を捕まえるか【核兵器】を回収することであり、【敵】側は制限時間まで【核兵器】を守るか【ヒーロー】を捕まえることが条件だ。
「コンビ及び対戦相手は“くじ”だ!」
「適当なのですか!?それに一人余ってしまいますが!」
「……飯田、敵もヒーローも同じ人数で対立するとは限らなくないか?」
「そうか…成程…!ありがとう風間くん!」
時にどちらかが不利になる状況だってあるのだ。それも踏まえての戦闘訓練なのだろうと言えば、飯田は納得したようだった。
オールマイトは、早くやろ!と意気込みながら、くじの入ったボックスを回す。それぞれくじを引けば、同じアルファベット同士で集まった。
「尾白と葉隠さん、宜しく」
「宜しく、風間」
「よろしく〜!呼び捨てでいいよ!」
「じゃあ、葉隠。…ほんとに見えないんだな…浮いてる…」
目の前に“透明”の個性を持つ葉隠透のコスチュームが、ふよふよと浮いている。俺は興味津々で見つめていると、彼女は尾白の後ろに隠れてしまった。
「そんな見られると恥ずかしい!」
「悪い、不思議な個性だなぁと思って」
「二人とも俺を挟むのやめて…は、葉隠さん当たってるから…」
「「何が…?」」
「……な、何でもないよ」
少し頬を赤らめる尾白に、首を傾げながら葉隠と顔を見合わせる。…恐らく目は合っていた、はずだ。
この時、一連のやりとりを見ていた背の低い髪型が特徴的な少年、峰田実が「浮いてる服もサイコー」と呟く。
「……服フェチ…?」
「絶対違うと思う…」
そう呟いた俺に、尾白が肩を竦めながら答える。違うのかと納得すれば、俺はみんなを集めるオールマイトのところへ向かった。
オールマイトにより、最初の対戦相手のくじが引かれる。出た組み合わせはAコンビである緑谷と麗日が【ヒーロー】で、Dコンビである飯田と爆豪が【敵】だった。
「……幼馴染対決、か」
2チーム以外の生徒がモニタールームに移動する中、俺は妙な胸騒ぎを覚える。
二人は幼馴染らしいが、緑谷を目の敵にする彼の背中に一抹の不安が過ぎる。しかし、咄嗟にかける言葉は、今の俺には思いつかなかった。
俺は、モニターに釘付けになる。モニター越しに繰り広げられる意図している訓練ではない内容に、オールマイトに制止の声を上げる生徒もいた。
圧倒的な強さで、緑谷を追い込んでいく爆豪。
彼の戦闘能力は、センスの塊。考えるように見えないタイプだが、咄嗟に繊細な動きも見せている。
「勝って!!超えたいんじゃないかバカヤロー!!!」
「その面やめろやクソナード!!!」
何か話しているが、モニター越しでは彼らの声は聞こえない。彼らが何を思い、何をぶつけ合っているのか見ている人間には分からなかった。
ーーー恐らく、彼らの仲にだけある感情。
圧しているのは明らかに爆豪だった。しかし、どうだろう。緑谷に挑む彼の顔はまるで…
「……勝己…辛そうだな」
切島が、爆豪の方が余裕がなさそうだと言った言葉に、俺は心の中で同意した。あれは、緑谷に対する見たくもない劣等感か、己の自尊心か。
彼は強い。しかし、その強さが、彼を成長させるための何かを邪魔をしているのかもしれない。
気づけば、試合は終わっていた。
勝ったのは、ぼろぼろのヒーローチーム。
搬送された緑谷以外がモニタールームに戻ってくれば、オールマイトによる講評が始まった。今戦のベストは飯田。彼が一番状況設定に順応していたからだと、推薦入学者の八百万が解説する。
俺は爆豪の顔色を伺う。私怨丸出しの独断だと言われた爆豪の表情は、暗い。
「…………」
《…空悟にぃ、》
「…俺に、なにかできるわけじゃない。あれは、アイツ自身が乗り越えるべき壁だ」
そう、彼の心配ばかりしてはいられない。俺も充分に戦える訳では無いのだ。他人の心配をしていては、足元を救われてしまう。
「じゃあ次のチーム行ってみようか!」
次は、俺たちの番だ。
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