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【ヒーロー】側は轟と障子。【敵】側は尾白と葉隠、そして俺。先程の建物は倒壊してしまったので、場所を移して第二戦目が始まろうとしていた。


「尾白くん、風間くん私ちょっと本気出すわ!手袋もブーツも脱ぐわ!」

「うん…」

「すごい、完全に見えなくなるのか…」

「風間がなんでそんなに冷静なのか、俺にはわからないよ…」


文字通り全裸になった葉隠に、尾白は顔を逸らす。確かに女子の全裸と言われればそうなのだが、見えないのだから照れていても仕方ない。尾白には内心ちょっとびっくりしてるんだと付け足しておく。


「轟は推薦入学だってよ!」

「風間は一般入試2位でしょ?」

「2位!?マジ!?そりゃ俺助けられるわ〜」

「ぜんっぜん、誇らしくないからソレ」


一方、モニタールームでは切島、芦戸、上鳴、耳郎を中心に、どちらが勝つのかと盛り上がりを見せていた。オールマイトは「あの子が相澤くんの預かっている…」と、風間の映し出されたモニターを見つめていた。


「…轟は、複数の個性を持ってるって言ってたな」

「え、そうなの!?なんだよなんだよズルい!」

「とにかく構えよう、葉隠さん。…え、そこにいる、よな?」

「ッ!二人とも来るぞ!」


微かな空気の振動を読み取り、俺は即座に身構える。しかし、身構える意味などなかった。

ーーー辺りは一瞬で、凍り尽くされたのだ。


「……!!」

「動いてもいいけど、足の皮剥がれちゃ満足に戦えねぇぞ」

「痛タタタタ……!!」


素足でいた葉隠は勿論、氷結対策などしていない尾白も動けない。轟は悠々と核兵器へ近づいてきた。


「ビル凍らすのは、予想してなかった…」

「…風間、悪かったな。レベルが違い…」

「でも、舐めてもらっちゃ困るなぁ、轟。

“ 空気砲 ―Air Gun― ”」

「……ッ!!」


核兵器へ触れようとする轟に、指先から圧縮した空気を放つ。核兵器を爆発させないように圧縮率は低めにしたため、ギリギリで避けられてしまった。

しかし、核兵器との距離は稼げた。


「風間くんやったれ!」

「動けないのに無理するな」

「動けないとはッ、言ってないだろ!」


ブーツの裏から空気圧を放ち、氷を割って抜け出す。そのままの勢いで轟に拳を振るう。

拳は氷の壁に阻まれる。すかさずその氷も足を振りかぶり、割り砕く。辺りに破片が舞うも、俺たちは動きを止めない。

ちょこまかと動くのは、あの人との訓練のおかげだ。俺は狭い室内を飛び交う。轟はあの人より遅いし、動作が大きい。


轟の左側は、彼の氷で覆われている。彼は、本当にもう一つの個性は使わないつもりだろう。


「そっちの個性、使わねぇのかッ…!」

「…ッ、お前も使ってないだろ」

「使わないとは言ってない」

「な、」


俺は轟の左側の腕を掴む。左側が彼の使いたくない“個性”だ。一か八か賭けたところもあったが、どうやら当たったらしい。


ーーー彼に、一瞬の隙ができた。


「《憑依》」

「ーー…ッ!」


俺の目を見た轟は、カクンと項垂れ膝を付けば、動きを止める。そして、赤い瞳が俺を見上げる。


「ごめんな守形、傷つけることには使わないから、許してくれるか…?」

「《…うん、動きを止めるため、だよね?》」

「そう、それも作戦として重要なことだよ」

「《…んっ、わかったよ空悟にぃ!》」

「ッ、ごめ、その顔で空悟にぃはっ、」

「《…?空悟にぃ?》」

「ぶはッ…!!!だめ、待って無理だこれ」


こてんと轟の顔のまま首を傾げる守形に、思わず吹き出してしまう。

轟が作り出した氷の壁で二人には見えていなかったが、居てもたってもいられず、早々にテープを巻き付けた。








mokuzi