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心ここに在らずの俺だったが、オールマイトによる講評はきちんと聞くことにした。


「先程の戦闘、ベストは障子少年だ!轟少年と風間少年のバトルもよかったけどね!」

「風間さんは轟さんを捕まえた後の気の緩みが原因ですわ」

「…うん、その通りだよ八百万…」


八百万が自信満々に淡々と述べるため、更にダメージが増す。自分がただ単に轟と話したかっただけだったということは、伏せておくことにした。


「風間惜しかったなー!でも、轟とのバトルよかったぜ!」

「氷の中から捕まった轟出てくんだもん!お前なんなの!?」

「二人とも落ち着けって」


興奮している切島と上鳴を宥めながら、残りの講評を聞く。講評が終われば、案の定蛙吹が話しかけてきた。


「風間ちゃん、もう一つの個性を使ったのかしら」

「うん、使ったよ。でも、氷で見えなかったっぽいな?」

「ええ、残念だわ。また見せてちょうだいね」

「……ありがとう、梅雨ちゃん。また見せるよ」


それ以上深く聞いてこない彼女に、内心ほっとした。彼女はとても頭が良く、機転も利くのだろう。
思ったことを何でも言ってしまう性格だからこそ、彼女なりに気を使ってくれたのだ。


その後残りの試合も問題なく進み、緑谷以外大きな怪我もなく、戦闘訓練は終わった。物凄い勢いで去っていくオールマイトを見送り、俺はちらりと爆豪を見やる。

あれから彼は俯いたまま、一言も発していなかった。


「………勝、己…」


そんな彼に声かける術を、俺は持っていない。俺は伸ばそうとした手を、きつく握り締めた。




ーーー…放課後


放課後になっても生徒たちは帰らず、今日の訓練の反省会をしていた。全員の自己紹介やらが始まる。


「風間!いい加減ネタばらし、な!?」

「あーうんまた今度な、上鳴」

「ちょっと俺の扱い雑になってません!?」


上鳴は放課後になっても元気だったので、適当にあしらっておく。受け流せば、少し拗ねてみせるも、すぐ主に女子に話しかけに行った。

放課後になっても緑谷の姿は見られず、そんなに重症だったのかと思い知らされる。
緑谷のことを考えていると、突然背中に視線を感じ、目の前にいた蛙吹に恐る恐る話しかけた。


「………梅雨ちゃん、俺後ろからすっごい視線感じるんだけど」

「ええ、轟ちゃんがものすごく見てるわ」

「だ、だよなー…轟、なに?」

「!…いや、何でもねぇ…」

「…何でもなくないか?」


視線が痛いよと言えば、悪いの一言。戦闘訓練が終わってから、物凄い視線を感じていたのは彼だったのだ。


「二人は戦闘訓練で、何か話していたように見えたのだけれど」

「…うん、まぁ…個性の話を…」

「…轟、風間のこと綺麗だって言ってたんだよな?」

「尾白何それ詳しく」

「あの話でしょ…!事件だよ!」


その言葉を聞いた芦戸と葉隠が、尾白に詰め寄る。何やら盛り上がっているが、取り敢えず轟を何とかしよう。


「轟、よかったら一緒に帰るか」

「…いいのか」

「うん。途中までだけど、いいか?」

「ああ」


案外すんなりと従う轟に、内心驚く。そのままみんなに声をかければ、二人で帰路についた。まあ、友達ができたと思えばいいよなぁなんて、呑気に考えていたのだ。



「……見た?轟の顔、見た?」

「あれ惚れてる。惚れちゃってる」

「君たち、やめなさい」


俺と轟の姿を最後まで見送った女子二人と尾白が、そんな会話をしていたなんて、俺が知るはずもない。








mokuzi