それいけ委員長!!
オールマイトが教師に就任したニュースは、全国を驚かせ、連日マスコミが押し寄せる騒ぎになっていた。
門の前には人集りができており、登校する生徒に手当たり次第取材しているようだった。
「うわ、なんだあの人集り…あ、勝己おはよう」
「…チッ」
「朝から人の顔見て舌打ちすんなよ」
ていっと頭に軽く手刀を入れる。昨日の夜、彼にどう接していいか迷ってはいたが、今まで通りに絡んでいくことに決めた。気を使われるのも使うのも、彼は望んでいないだろう。
「あ゛!?何すんだてめぇぶっ殺されてぇか!?」
「おはよう、は?」
「誰が言うかクソが…ッ!!」
言ってくれないのかと残念に思いつつ、彼の後ろを歩く。
門を通ろうとすれば、彼が取材陣のマイクを向けられてしまい、その隙に俺は門を通ろうとするも、案の定取材陣に取り囲まれてしまった。
女性レポーターにマイクを向けられ、思わずカメラの方を見て立ち止まる。
「オールマイトの授業…あれ!?君も“ヘドロ”の時の!!」
「わぁ、懐かしい…よく覚えてますね」
「オールマイトに助けられ、それを糧に雄英を!?それにしてもイケメンです!雄英高校は学力の偏差値だけでなく、顔の偏差値も高いですねぇ!顔よく撮って!カメラカメラ!!」
「…えっと、」
「おい行くぞ、何しとんだ」
興奮気味の女性レポーターに圧倒され言葉に詰まっていると、先に歩いていた爆豪に腕を引かれる。腕を引っ張る彼の力は強く、すぐに取材陣から抜け出すことが出来た。
「悪い、ありがとう」
「あんなのすぐ振り切れや。昨日のてめぇはどこ行った」
「…昨日の俺?」
「……チッ、やっぱムカつく」
ぱっと手を離され、先を行く爆豪の背中を見送る。昨日の俺とは、一体何のことだろうか。ぽかんとしたまま首を傾げ、少しの間考え込むも答えは出なかった。
そして、唐突に頭に走る小さな衝撃。
「早く教室に行け」
「いっ、たぃ……消太さん、朝からチョップはねぇって…」
「さっき爆豪にしてただろ」
「…見てたんですか」
頭を抑えて振り返ると、そこには朝も一度顔を合わせている消太さんがいた。ちなみに、今日の昼はランチラッシュのご飯を食べる為に弁当はお休みである。
「…生徒に平等であってほしいんですけど、勝己のことちゃんと見てあげてくださいね。溜め込んで爆発するタイプだと思うんで」
「……お前、下の名前で呼んでんのか」
「ンン、今の話で気にすることそこじゃない…」
うまく話が噛み合わない消太さんは放っておこうと、項垂れたながら踵を返す。俺が消太さんの居候である時点で、俺は少なからず平等の立ち位置ではないということは分かってはいるが、爆豪のことを“男の子の思春期”という言葉だけで、放っておくわけにはいかないのだ。
「風間」
「…何ですか?」
周りに生徒がいるからか、彼は苗字で呼び止める。俺は少し不機嫌気味で顔だけ振り返った。
「教師として生徒のことはきちんと見ていく。…お前も俺の生徒だ、いいな?俺は別にお前を贔屓するつもりはねぇ」
「……分かってますよ」
「ならいい加減、戦闘中に他の事考える癖直せ」
「〜っ、分かってますよ!」
「…個性の使い方は上手くなった。轟の不意をついたのも悪くねぇ」
「…あ、あんたな…っ、今度は下げて上げるとか…っ…ありがとう、ございます…」
「ほら、早く行け」
何処まで知っているのかわからないが、昨日の戦闘訓練の録画VTRでも見たのだろう。俺と轟の会話も聞かれているのかもしれない。
未だに掴めない彼の思考に一喜一憂している自分が恥ずかしく、上手く言葉に表せない。
ーーー恐らく、俺の顔は赤い。
自分の方が年上だからと、同級生として彼らを平等に見ることが出来ていないのは、寧ろ自分の方なのかもしれない。
そう思えるくらい彼は大人で、雄英高校の教師だった。
見透かされ、少し情けない気持ちになりながら、彼に背を向け教室へと足を向けた。
「………轟のあの発言…ただの不意をついた作戦じゃねぇぞ、空悟…」
相澤の呟きは、門に近づきすぎた取材陣によって作動したセキュリティの音に掻き消されていった。
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