46
そして、朝のホームルーム。消太さんが昨日の戦闘訓練の話をする。案の定、爆豪と緑谷は名指しで釘を刺されてしまった。
咎めるだけでなく、きちんと能力は認め、それを高めるために何がいけなかったのかを諭してくれる。やはり、彼は教師だった。
「さてHRの本題だ…急で悪いが今日は君らに…」
「(何だ…!?また臨時テスト!?)」
「学級委員長を決めてもらう」
「「学校っぽいの来たー!!!」」
みんなが一斉に手を上げる。俺が生きていた世界では、学級委員長に立候補する人間は、真面目な人かクラスの人気者だったので、思わず尻込みしてしまう。
ここはヒーロー科。集団を導くというトップヒーローの素地を鍛える役なのだ。しかし、俺はやりたい人がやればそれでいいと思ってしまい、手は挙げなかった。
「静粛にしたまえ!!」
飯田の一言で場が静まり返る。飯田は、委員長は“多”をけん引する責任重大な仕事であり、“やりたい者”がやれるモノではないと言う。これは投票で決めるべき議案だと、そういう本人も右手は綺麗にそびえ立っていたため、全員にツッコミを入れられてしまう。
「飯田、面白いなぁ」
《空悟にぃ、委員長するの?》
「……うーん」
呑気にぼんやりとしていると、せっせと投票が始まった。俺は別にどちらでもいいし、守形もやりたい人にやってほしいと思っていた。
ーーー開票の時間。
「僕、三票ー!!!?」
「なんでデクに…!!誰が…!!」
「飯田、結局自分に入れてるんじゃねぇか」
「俺は自分に入れていない…!!くっ、さすがに聖職といったところか…!!」
砂糖に言われ、飯田がすかさずそれを否定する。ちなみに飯田に入れたのは俺だから、俺には一票も入っていない。
黒板を眺めていると、轟の名前もないことに気がついた。俺は不思議に思い隣の彼を見ると、彼も同様に俺を見ていたのか、目が合ってしまった。
「…お前、自分に入れなかったのか」
「そういう轟もだろ?」
「……俺は、八百万に入れた」
「ああ、成程。俺は飯田に入れたよ」
お互い納得すれば、また黒板に向き直る。
緑谷が三票で委員長。そして、八百万が二票で副委員長となった。緑谷に票が集まったのは少し意外だったが、昨日の彼を見て心を動かされた人がいたのだろう。
午前の授業も無事に終わり、お楽しみのランチラッシュのご飯だ。あのブラック企業の社員食堂は本当に不味かったからなぁと、期待を膨らませて俺は財布を手に席を立つ。
「…轟、食堂?」
「…ああ、蕎麦が食いてぇ。風間も食堂なのか」
「うん、ランチラッシュのご飯食べてみたいなぁと思ってさ」
なら一緒に行こうと二人で食堂へと向かう。昨日の帰り道、好きな食べ物の話をしたりしたが、轟は温かくない蕎麦が好きらしい。
食堂はとても賑わっており、なかなか空いている席を見つけられない。先に蕎麦を受け取った轟を見つけるのも一苦労だ。
「混んでるなぁ…」
「風間、こっちだ」
「あ、よかった…あれ?」
キョロキョロ見渡していると、座っていた轟が手を上げて俺を呼んでいた。人を掻き分け近寄ると、轟と向かい合う形で空白の席が一つ。そして、その隣には芦戸と服が浮いている。
ーーー恐らく、葉隠だろう
「キョロキョロしてたからさ!よかったら一緒に食べよ!」
「ありがとう、助かるよ」
折角のランチラッシュのご飯、冷める前に食べれそうでよかったとひと安心する。ちなみに、俺は見るからに美味しそうな唐揚げ定食だ。
いただきますと口をつけると、俺は口の中に広がる唐揚げの美味しさに、思わず声が漏れる。
「…うっま…んだこれ…んん…からあげ、んま…」
「…風間の顔、おもしれぇ。ハムスターみてぇだ」
「見入ってるねぇ轟くん」
あまりの美味しさに感動した俺は、轟にも味わって欲しいと思い、唐揚げを持ち上げる。
少し驚いた表情の轟だったが、すぐに口を開け、そのまま唐揚げを頬張る。隣の女子二人が、呆気に取られた様子でこちらを見ていた。
「……ん、…うめぇ」
「だよな!…んんっ、この白米うま…っ」
「え、二人はそれが普通なの?」
美味しくて、楽しい昼食。
しかし、それは突如終わりを迎える。
「…何だ?」
「け、警報…!?」
ーーー雄英の校舎に、警報が鳴り響いた。
← mokuzi →