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異様な雰囲気を纏う男を見た俺は、1歩後ずさる。侵入者用センサーは作動していない。向こうにそういうことが出来る“個性派”がいるということだ。

校舎と離れた隔離空間。そこに少人数が入る時間割…何からの目的があって用意周到に画策された奇襲である。


「13号避難開始!学校に連絡試せ!センサー対策も頭にある敵だ。電波系の“個性”が妨害している可能性もある。上鳴おまえも“個性”で連絡試せ」

「っス!」

「先生は!?一人で戦うんですか!?」


消太さんが的確に指示を出す中、緑谷が声を上げる。敵の数は今見えているだけでも、かなりの人数だった。


「イレイザーヘッドの戦闘スタイルは敵の個性を消してからの捕縛だ…正面戦闘は……」

「一芸だけじゃヒーローは務まらん」


消太さんはそう言うと、首の捕縛布に手を掛けた。13号にこの場を任せれば、敵のいるセントラル広場の方へと降りていく。

敵から見れば、単身挑んできたマヌケな奴に見えたのだろう。敵は“個性”を発動し攻撃をしようと仕掛けてきたが、それは消太さんの“個性”によって消され、呆気なくやられていった。


「俺らみてぇな異形型のも消してくれるのかぁ!?」

「いや無理だ」


異形型の敵が襲いかかるも、消太さんは素早く相手に近づき顔面を殴り飛ばす。俺と組み手をした時のスピードとは訳が違った。

イレイザーヘッドは“個性”を消すことの出来ない異形型にも対処できるよう肉弾戦にも強く、その上ゴーグルで目線を隠して、誰を消しているのか分からないようにしている。

集団戦においての敵の連携崩し…流石はプロヒーロー。有象無象では歯が立たないのだ。



ーーーしかし、それは短期戦での話である。


イレイザーヘッドが得意とするのは、あくまで“奇襲からの短期決戦”であり、集団との長期決戦には向いていない。

彼の“個性”は動き回っていると分かりにくいが、発動時に髪の毛が逆立つ。それは一アクション終えるごとに起こり、徐々にその間隔も短くなっていく。


『まぁ、消太さんのデメリット見つけたところで勝てないんですけどね』

『当たり前だ。まだ生まれたての子鹿みたいなお前に負けるわけがないよ』

『子鹿……俺はともかく、敵にバレたらどうするんですか』

『その前に捕縛する。長期戦は合理性に欠ける』


俺は彼と組み手する中で、そのデメリットを見つけ出した。表に出ていないイレイザーヘッドだからこそ、相手が“個性”について気づかないまま、捕縛することが出来るのだ。


だからこそ、この状況は不味いのではないだろうか。消太さんが負けるはずがない。しかし、俺たち生徒を守る為に飛び出したのであれば、どうだろうか。

真正面から向かっていく彼の背中に、俺は一抹の不安を覚える。皆が背を向け13号に連れられ走っていく中、俺はその場から動けなかった。


「すごい…!多対一こそ先生の得意分野だったんだ」

「駄目だ…消太さん…」

「…風間くん?」

「分析している場合じゃない!緑谷くんと風間くんも早く避難を!!」

「させませんよ」


飯田が俺を呼ぶ声が聞こえたかと思うと、黒いモヤのようなものが俺たちの目の前へと姿を現した。


「あいつ、瞬きの一瞬の隙をッ…」

「初めまして我々敵連合。せんえつながら…この度ヒーローの巣窟雄英高校に入らせて頂いたのは…平和の象徴オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして」


やはり、奴らの目的はオールマイト。ここにいないことを疑問に思っているということは、事前にこの授業のことも把握していたということである。


「まぁ…それとは関係なく…私の役目はこれ」


モヤがユラりと動き、すかさず13号が構えたが、その前に切島と爆豪が目前に現れ攻撃を仕掛けた。モヤは攻撃を受けるも、あまり攻撃は効いていないようだった。

攻撃を受けたにも関わらず、またユラりとモヤが体制を立て直したことに、俺は慌てて緑谷よりも前に出る。


「その前に俺たちにやられることは、考えてなかったか!?」

「勝己!!切島!!下がれッ!!!」

「危ない危ない……そう…生徒といえど優秀な金の卵」

「ダメだ!どきなさい二人とも!」

「散らして、嬲り、殺す」


黒いモヤは、俺たちを包み込むように広がっていく。これでは消太さんの加勢には、行けそうにない。

「クソッ…!!」

俺は瞬く間に、モヤへと飲み込まれて行った。










mokuzi