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完全に背を向けていた俺は、今度は空気層無しに脳無の攻撃を受ける。俺と消太さんの身体は、柱へと叩きつけられた。
身体の中で歪な音が鳴り響き、口から血を吐いた。腹部には瓦礫が突き刺さり、真新しいコスチュームが血で染まっていく。
意識が朦朧として、目の前が霞む。
ーーー脳無に、守形の“個性”が効かなかった…?
「《ッ、ァあぁ…ッ!空悟にぃ死んじゃやだぁッ!!》」
「ぐ、ぁ…ッ…ッ…ゔ……」
受け身も取れず叩きつけられた俺と消太さんは、襲い来る痛みに顔を歪めた。息が上手くでず、か細い呼吸音と共に肩で息をする。
「ッ…空悟、動くな…ここにいろ」
「…苦し、んで…俺の、せい、で…」
「喋るなッ…」
口から言葉を発する度に、全身に痛みが走る。守形の悲鳴が聞こえ、彼の方を見ると、彼は精神的パニックを起こし、俺の身体に戻れそうになかった。
脳無は言葉とは言えない奇声を発している。守形の声は、俺だけにしか聞こえない。
ーーー彼の悲痛な叫び声だけが、脳内に響く。
「脳無…何やってる」
「《止まって、嫌だ…ッ、嫌だぁあッ!!》」
脳無自身も身体の自由が効かないためか、暴走を始めた。その間も、守形は叫び、泣いている。彼はもう二度と誰かを傷つけたくなかった。だからヒーローを目指そうと、あの日俺の中で二人で誓い合った。
ーーー俺と2人で最高のヒーローになろう
「…っ、すが、…た…ッ…ご、めん…ッ…な…」
「《うぁあぁ゙ぁ゙ッ!!!!》」
俺のせいだ。安易に彼の力を使ったから、こうなってしまった。彼をまた、苦しませてしまった。
ボロボロの消太さんが相手の動きを止めとするも、更に脳無に痛めつけられていく。
そして、消太さんを地面に叩きつけると、脳無はゆっくりと俺に近づいてきた。
「……今、たす、ける…ッ…から…」
ーーーだから、泣かないでくれ。
俺を見下げる脳無は、涙を流していた。
消太さんが何かに気づき俺を“視た”のと、脳無の動きが止まったのは、ほぼ同時だった。
彼が、薄れる俺の意識の中へと戻ってくる。
《っ、ぁ、ぁぁ…空悟、にぃ…ごめん、なさ、い…ぼ、く…ッ止められ、なかった…ッあいつ、止まらなくて、2人を…》
「……おまえ、の…せいじゃ…な…ゔァ…ッ…!!」
《空悟にぃ…ッ!!!》
俺を見下ろしていた脳無が動き出し、俺の首を絞めながら持ち上げる。息ができず、掴んでいる手を掻き毟ることしか出来ない。
「ぁ゙…ぐ…ッ…、ゔ…ッ…」
ミシミシと首を締め付けられ、意識が飛びそうになる。脳に酸素が足りず、目の前が暗くなる。
首を折られるか、窒息するのが先か。
ーーー………………ああ、そうか…
「……ッ…、は……ッ……おま、ぇ…息、くらい…してん、だろ…」
ーーー…その手があったか
俺は脳無を空気の中に閉じ込め、圧縮する。自身の酸欠など気にもせず、残っているありったけの力で脳無を真空状態の空間に封じ込めれば、苦しそうにもがく脳無の力が弱まり、俺はそのまま地面へと落とされた。
《っや、だ…空悟にぃ、死んじゃ、やだ…ッ…!!》
「…はッ………けほッ………はっ…ッ、……」
まともに呼吸をすることが出来ず、咳き込むと、口から血が溢れてくる。
俺は薄れゆく意識の中、手をつけた男の赤い瞳が俺を好奇な目で見つめているのが見えた。
「あいつ脳無を窒息させようとしたんだぁ…あぁ、やっぱりいいなぁ…」
「空悟ッ…〜っ!!!!!」
「“個性”を消せる。素敵だけどなんてことはないね。圧倒的な力の前ではつまりただの“無個性”だもの」
「ぐぁ…!!」
「生徒一人も守れない“無個性”ヒーローだなぁ?」
俺の“個性”が弱まった脳無は、消太さんの攻撃を受けるも平然としていた。消太さんは脳無に押さえつけられてしまい、腕を潰され、顔を地面に叩きつけられる。
「…しょ、…た、さ……」
敵。プロの世界。
俺たちはまだ
何も見えちゃいなかった。
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