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「チユー!!!」

身体の痛みが無くなった代わりに、全身に極度の疲労感を感じた。俺は今、学校の保健室にいる。


「終わったよ」

「っ、あ…ありがとう、ございました…」

「ほら、ペッツお食べ」

「あ、ありがとうございます…」


ーーーリカバリーガールの個性は“癒し”。

対象者の治癒力を活性化させて、重傷患者も治癒させることができる。傷に応じて対象の体力を使い活性化させるため、重傷が続くと体力消耗し過ぎて逆に死ぬらしい。

リカバリーガールからお食べと言われたペッツを貰い、口に含みながら身体の傷などを確認する。

そっと、腹部の傷に触れる。傷は綺麗に塞がっているが、大きな火傷の痕は残っていた。


「腹の傷だけどね。傷自体は塞がったけれど、放置した時間が長かったせいで火傷の痕は残るよ」

「…大丈夫です。逆に残しておきたいんで…自分への戒めにします」

「出血多量で後一歩遅ければ危なかったからね。その傷塞いでくれた子に感謝しておやり」

「!…はい」


火傷の痕に触れながら、轟のことを思い出す。悲痛な表情でこちらを見ていた彼の顔が、脳裏に焼き付いていた。使わないと言っていた左側を使わせてしまったことが、彼のトラウマになってはいないだろうか。

退院したら、真っ先に彼に謝らなければならない。そして、俺の事を助けてくれたお礼もしよう。



あの後体力も回復していたため、すぐに学校に移ってリカバリーガールの治癒を受けることになった俺は、その間消太さんと口を聞いていない。

彼には何か思うところがあったのだろう。だから、あの時俺がきちんと事情聴取に答えていれば、こんなことにはなっていないのだ。

しかし、俺の思い込みだと頭では分かっていても、あの目が脳裏に焼き付いて離れなかった。


《…空悟にぃ、消太さんはもう僕たちのこと疑ったりしないよ。大丈夫だよ》

「………」

「…私は、事情は知らないけどね。あんまり思い詰めるもんじゃないよ」

「ぇ、あ……か、顔に出てましたか」

「雰囲気さね。似た者同士なら特に、素直になれないのは仕方ないんだよ。どちらかが歩み寄ってみてもいいかもしれないね」

「……歩み、寄る…」


リカバリーガールの言葉を頭で反復させ、俺はベッドに横になる。確かに、俺も消太さんも一言足りない部分があるのかもしれない。あの時もう一言付け足していればと後悔することさえある。


「どうしてほしいのか、言葉にしなきゃ伝わらないよ」

「……俺はただ、…信じてもらいたいだけなんです」

《……空悟にぃ…》

「ならやることは一つだね。ほら、怪我人は寝た寝た!」


ーーーまだ出会って一年。

お互いのことを全て分かるはずもない。相手の気持ちを汲み取ることができないのも当たり前だ。まだまだ手探りでいいのだ。少しだけ、また踏み出してみるしかない。

少し崩れていた自分の足元を見て、まだ大丈夫だと今は前を向く。段々と眠気が襲ってきた俺は、静かに目を閉じたのだった。














ガラリと扉が開く。リカバリーガールはやって来た訪問者を見ては肩を竦めた。


「気になるなら中に入って一緒に聞けばいいのに、あんたも頑固だね」

「…傷はどうです」

「傷は元通りだけど、火傷の痕は残るよ。今は寝ているから静かにね」

「……空悟、」


自分が巻いた包帯のせいで目元しか見えないが、風間を見つめる相澤の眼差しはとても優しく、憂いを帯びていた。

この男も相当拗らせているのだと内心ため息をつく。女性という生き物は、他人の感情に敏感である。しかも、目の前の男が抱いている“感情”については特にだ。


「はぁ…子供にあんまり背負わせるんじゃないよ。この子は周りより大人びているのかもしれないけどね…大事な子なら、きちんと見ておやり」

「…こいつ、何か言ってましたか」

「それを私に聞くのは野暮ってもんだよ。全く…子供に気を使わせる親がどこにいるってんだい…」

リカバリーガールは彼の発言に、またもや肩を竦めた。彼女は保護者として預かっているという事情を知っているからこそ、まだ高校一年生になったばかりの子供に気を使わせていることが不思議でならなかった。



彼女は、平和の象徴と緑頭の少年のことを思い出していた。あの二人も師弟揃って無茶なことを仕出かすが、彼らよりはまだマシなのではないだろうか。


似た者同士な上にお互い素直に話せない彼らの方が、よっぽど厄介だとため息をつくのだった。









mokuzi