うなれ体育祭
教室に戻ろうとすると、A組のドア付近に生徒達が群がっているのが見えた。どうやら敵の襲撃を耐え抜いたA組をひと目見ようと集まってきたらしいが、何やら一悶着あったようだ。
恐らく爆豪だろうなと苦笑を浮かべながら、断りを入れつつ人を掻き分けていく。
「こら勝己ぃ…お前ほんと敵作るのだけは得意だな。お前のそういうとこ好きだけど、クラスメイトのこと考えような?」
「はぁ!?エアプ野郎が舐めたこと言ってんじゃねぇぞ…あとちょいちょい好きとか言ってんじゃねぇ!!!」
「え、やだったか?俺お前のこと好きなのに」
「ッ、あぁ゙ッ!?」
自分自身が優柔不断な性格だからか、爆豪のように白黒はっきり付けられる人を見ると尊敬してしまう。彼のような人間が周りにいなかったからもあるが、案外彼の隣は心地が良い。ただ誤解を招く彼の言動は、少し直していくべきだとは思うが…
暴言の止まらない爆豪を宥めつつ、教室のドアをくぐる。しかし、1番前にいた目の下の隈が印象的な紫髪の生徒に肩を掴まれた。
「あんたもA組?よくそんなのと仲良くできるね」
「こいつこんなのだけど、誰よりも強いよ」
「…へぇ?」
『……あ、れ…?』
暫く目の前の彼と無言で見つめ合えば、彼は踵を返して人の群れを掻き分けて行った。それを機に、集まっていた生徒達も散り散りになっていく。
紫髪の彼を目で追っていると、守形が頭に手を当て何かを思い出そうと唸っていた。そして、思い出したのか大きな声を上げる。
『思い出した…!入試の時、僕の個性が効かなかった人だ!』
「!…あいつが…」
『…空悟にぃ。僕、強くなる為にも彼が本当にあの人なのか、確かめたい。もしかしたら、個性強化のヒントになるかもしれないし…』
「…そうだな。体育祭が楽しみだ」
『うん…!』
入試の時、憑依を繰り返す中で個性を弾かれてしまった人がいたと言っていたのを思い出す。もし、彼が本当にその人物なら、この体育祭で確かめる必要があるかもしれない。
「……てめぇコラ…今の…なんだ…」
「……何が?」
「誰よりも強ぇとか言ったろうが…!」
「勝己は強いよ。でも、負けない。お前に勝ってみせるよ」
「!……上等だクソが。かかってこいや」
彼はそういうと教室を出ていった。俺は彼の強さを認めているが、決して負けているとは思っていない。誰よりも上を目指している彼だからこそ、勝ちたいと思うのだ。
「空悟、一緒に帰るぞ」
「あ、…悪い、焦凍。俺、今日は一緒に帰れないんだ」
「………俺の事、嫌になったか」
「…何言ってんだよ、バカだな。嫌いになんかなってないよ」
「バカじゃねぇ…ん……。ならいい、また明日」
「ん、また明日な」
先程のことで少し話しかけにくいとは思っていたが、轟から話しかけてきてくれたため、関係がすぐに変わる訳では無いのだと、少しほっとする自分がいる。
消太さんとの約束があるため、一緒に帰るのを断ると、轟は少し間があってから表情を曇らせた。そんな彼を見て、彼自身も接し方に不安があったのだと伝わってきた。
バカじゃないと少し拗ねてみせた彼の頭をぽんぽんと撫でてやれば、満足したような表情を浮かべ、教室を出ていった。
「み、三奈ちゃん!二人がめっちゃ進展してるよ!」
「教室出ていったと思ったら…何があったの…!」
「……か、かっちゃんがこの場にいなくてよかった…」
葉隠と芦戸が俺と轟を交互に見て、慌てふためいており、緑谷は緑谷で顔を青くしていたが、何かあったのだろうかと内心首を傾げる。
ーーー体育祭まであと二週間。
参加種目の決定
それに伴う個々人の準備
二週間はあっという間に過ぎていく。
その間も消太さんとは表面上は上手く話せても、接する距離感が分からないギクシャクした状態が続いていた。
しかし、今は目の前の体育祭が重要だ。俺達をプロにアピールする一年に一度の大チャンス。
ーーー体育祭で一位を取って、消太さんに認めてもらおう。
「…よし…行くぞ、守形」
『うん…行こう、空悟にぃ!』
ーーーさあ、体育祭の幕開けだ。
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